1日目(20)―怒涛の1日の終わりに

 もやもやを抱えたまま、龍馬は帰宅した。


 母との再会は、うれしかった。が、同じくらい切なくもあった。

 きっとどこかで、また自分の無力感を感じてしまったからだろう。

 改めて見るかつて住んでいたアパートは、一層狭く、一層わびしい印象を龍馬に与えた。

 それから龍馬は、前の時間軸の高校時代と同じように買い置きの即席麺を茹で、鍋のまますすった。食べるというより、無理やり腹を満たす。その感覚が、少し懐かしくも感じられた。あっという間に食べ終わると、龍馬はインスタントコーヒーを入れた。そしてコーヒーを飲みながら、今日一日を振り返った。


 まさに、怒涛の一日だった。

 

 目覚めたら、20年前。

 母校に20年ぶりに行き、未来の元カノ碧に最初に力を貸してくれと頼んだ。

 一緒に未来を変える作戦を考えてほしい、と。

 続いて、その碧の発案で未来の親友である東海林のもとに走った。

 彼を半ば拉致し口説き落として仲間にすると、新たにリクルートすべき人物ふたりにも目鼻をつけた。未来の首相SPリーダーの桐生、そして未来の天才ハッカー百武だ。

 さらに最後には、母のいる病院へ。20年ぶりの再会を果たした……。


 時計を見ると、もう22時を回っていた。

 あと約2時間で、今日が終わる。

 それは、6日間のタイムリミットの1日目が終わることを意味した。


 ――残り5日。


 あと、たった5日しかないのだ!

 改めてそう考えると、龍馬はとても眠る気になれなかった。

 未来で起きた、あの核攻撃のシーン脳裏をかすめた。

 できることはすべて、先んじておかなければ……。


 龍馬は、元々やろうと思っていた桐生の情報収集から始めた。

 まず「東城台山路高校 ラグビー 桐生」と入力し検索してみる。幸先よく、5件ほどの記事がヒットした。そのうちのひとつをタップする。一 昨年の花園予選を伝える地元紙のオンライン記事だった。そこには「逆転トライを決める東城台山路の桐生くん(1年)」というキャプションとともに、顔写真も掲載されていた。その顔はあどけないが、たしかに未来で見たあの顔の面影があり、ほぼ間違いなく同一人物だと思われた。

 龍馬は、自分の記憶が正しかったことにひとまず安堵した。


 ただ、一昨年に一年だったということは、今は三年だ。同じ学年だとばかり思っていたが、どうやら桐生の方が学年は一つ上だったようだ。引き続き、東城台山路高校の住所を調べると地図アプリで開き画面をキャプチャした。未来では、完全デバイスフリー化が実現しており、思念でのテキスト入力が可能なので、正直、手で文字を打つこと自体がひどくわずらわしく、かつ面倒な作業であった。それでも龍馬は、忘れかけていたスマホ操作の記憶を手繰り寄せながら、乗換案内で地元の駅から桐生の高校の最寄り駅までの乗り換え方なども検索しキャプチャした。念のため天候もチェックした。こうしたスマホでの作業に思いのほか手間取っていると、龍馬の意識は次第に薄らぎ、徐々に舟を漕ぎ始めた。無理もない。今日は、龍馬にとってまさにだった。


 それでも、太腿をつねったり、目を何度もしばたたかせ、龍馬は必死の抵抗を続けたが、ついに力尽き、深い深い眠りに落ちいった……。

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