ジェネレーション・ストラグル 〜世代間闘争〜

１日目（17）―圧倒的な異能

「――18歳の女の子!?　そんなコが米軍のシステムをハックしたの？」

「あぁ、当時もかなりセンセーショナルに報道された。だが、事件が公（おおやけ）になった時、すでに犯人は死亡していたんだ」

「どういうこと？」

「在日米軍による取り調べ中、自殺したらしい。元々、引きこもりで外に出ることを極端に恐れていたらしいんだが、米軍がそれを無理矢理引きずり出して取り調べた。自殺は、その初日の夜に起きたらしい。だから、彼女が実際どのように世界最強と言われる米軍のシステムをハックしたのか、その細部や肝心の動機は藪（やぶ）の中となった……これが事件の概要だ」

「なんだか、色々とわりきれない事件だったんだね……」

「ねえ、総理くん……その犯人の名前、覚えてる？」

「名前って、まさか……」

「そうよ、彼女を仲間にするの。だって、世界最強のシステムをハッキングするほどの腕前よ？　最強の味方になると思わない？」

「それはそうだが……」

　龍馬は一瞬、逡巡した。

　しかし、たった６日で未来を変えるには、碧の言う通り「彼女」を味方につけるくらいのことをしないと難しいようにも思えた。犯罪者を味方につけるのか？　という思いもよぎったが、よく考えれば彼女はまだ犯罪をおかす前で、今はただの中学生に過ぎない。

「たしかに……俺たちの計画を実現するには、彼女のような圧倒的な異能が必要なんだろうな」

　龍馬は、考えを整理するように答えた。

「――総理くん、で、彼女の名前は？」

「うろ覚えだが……たしか苗字は百武（ひゃくたけ）だ。変わった苗字だったんで覚えている。下の名は……うーん、すぐには思い出せないな……」

「住んでた場所は？」

「たしか……千葉だった気がする。あっ！　思い出した！」

「なにを思い出したの？」

「当時のワイドショーでさ、彼女の過去のＳＮＳ投稿を盛んに取り上げてたんだ。で、そのハンドルネームがたしか……そうだ！　neosengoku39だ。彼女のハンドルネームはneosengoku39だった」

「えぇ――――――――――――――――――！」

　また例によって、東海林が絶叫した。

「だから東海林、もういい加減――」

「――フォロワーさんなんです！」

「はっ？　どういうこと？」

「だから！　俺のゲーム実況用垢のフォロワーさんなんです！　よく生配信してると、コテハンでけっこうコメントくれるフォロワーさんなんです!!」

　そう言って東海林は、自分のスマホを何回かタップすえると、その画面をふたりに見せた。

　そこには、ツィッターのフォロワー一覧が映し出されていた。

　ふたりが順番に上から見ていくと……。

「あっ」　

「ホントね……」

　たしかに、そこにはneosengoku39の文字があった……しかも、相互フォローで。

「それに……あなたフォロワー５万人もいるのね？」

　東海林のスマホを見て、初めて碧が東海林を認めたような顔つきで言った。

「あぁ、まあ、それくらいは。でも、実況者の中じゃ、まだまだ少ない方っす」

　東海林は、そんなことは大したことじゃないといった表情だ。

「それより、このneosengoku39というアカウントは本当に犯人と同一人物なのか？」

「とりま、プロフィール見ましょうか」

　東海林が再びスマホを操作する。

「えっと……あっ、これはビンゴぽいな〜」

　そう意味深につぶやき、再びふたりにスマホを見せながら東海林は続けた。

「まず現役ＪＣって書いてあるでしょ。趣味プログラミングとも。おまけに居住地も千葉。滅多にいないでしょ？　ハンドルネーム完全一致で千葉在住、趣味プログラミングのＪＣなんて」

「ちょっとあっけなかったけど……本物っぽいわね」

「あぁ」

　碧も龍馬も正直、驚いていた。

未来で伝説となるハッカーの少女のアカウントを、ほぼ特定できてしまったのだから……。

「ぶっちゃけ、私も中学生の女の子を味方にするのはちょっと気が引けるわ……でも、彼女のスキルが手に入れば、計画の成功率は飛躍的に向上するとは思う」

「だよ、な」

　龍馬も彼女をリクルーティングするか再び逡巡した。が、現状考えられる候補者のなかで、彼女ほど強力なカードはないとも思えた。たとえまだ中学生だとしても、だ。それに彼女レベルのハッカーを今から他で見つけられるとも思えなかった。

「で、どうします？　俺、連絡取った方がいいですか？」

「総理くん、どうする？」

　東海林と碧が決断を迫るように、龍馬を見た。

「――頼む、連絡を取ってくれ」

　龍馬は、最終的に東海林にそう告げた。

　その後、東海林が超高速でスマホを操り、軽い挨拶とスカイプアカウントを教えてほしい旨（むね）、さらに近々オフ会があるので参加しないかという内容を、３回に分け続けざまにＤＭで送信した。

　しかし、その日、neosengoku39から返信が来ることはなかった。