2日目(2)―三者三様

「いやぁ〜、しっかし空気がうまいなぁ〜!」


 駅を出ると、東海林が深呼吸しながら満面の笑みで言った。

 その手には、ユーチューバー御用達の小型ミラーレス一眼が握られていた。

「あのさ、証城寺。あそびに来たんじゃないからね? わかってんの!」

 そう言う碧の顔は不機嫌そのものだった。

「わかってますって、碧先生。それと、何度も言ってるように俺の名前は東海林しょうじですよ♪」

「どっちでもいいわよ、証城寺!」

 なぜふたりがここまで険悪なのか、寝起きの龍馬にはよくわからなかった。

 改めて、東海林を見ると、

「どもー、混沌告発者カオティック・ディープスロートでーす! じつは今日! ジブンなんと! 北関東の東城台駅に来ちゃってるんでーす! ドンドン、パフパフ……」

 手持ちの一眼で、ユーチューバーよろしく自撮り実況を始めていた……。


 三人は、北関東の「東城台」という駅の前にいた。


 あの桐生が通う高校の最寄り駅である。

 なぜ東海林までいるのかと言えば、龍馬たちの高校の最寄り駅に東海林が先回りして待っていたからだった……。


 遡ること、約三時間前。

 東海林は、駅で龍馬と碧を見つけるとブンブン両手を振った。

「どうして、証城寺がここにいるのよ!」

 碧が苛立った様子で聞くと、

「やっぱりだ! やっぱり、ふたりで行こうとしてたんですね? 同じ作戦を志す同志なのに!! 抜け駆けヒドいっす! ヒドいっす〜!!」

 などとワーワー東海林がわめきだしたのだ。


 聞けば、わざわざ学校も正式に休み、龍馬と碧が来る二時間も前から駅で待っていたと言う。しかも、頼んでもいないのに、ちょっとした撮影や編集なら十分できる機材を満載したリュックまで持って。ひょっとすると、未来のカリスマと言われ、少し浮足立ったのかもしれない。


 そんなテンションでやる気満々の東海林を置いていくわけにもいかず、結局、三人揃ってここまで来たというのがことの次第だった。移動中の車内でも、東海林はカメラ片手に終始笑顔だったが、対照的に碧は不機嫌だった。


 一方、龍馬は最初こそ主に碧と計画について話をしていたのだが、30分後には眠りに落ちてしまった。昨晩、中途半端な体勢で寝てしまったせいか、強烈な睡魔が襲ってきたのだ。


 そういった事情で、東城台駅に着いた三人は、寝起きの龍馬、不機嫌な碧、楽しげな東海林とまさに三者三様であった。


 駅前の人通りは、少なかった。というより、人自体が見当たらなかった。

どことなくマックを模したと思われるせた看板のファストフード店らしき店があるのみだった。他に選択肢もないので、三人はその店で遅めの昼食をとることにした。時刻は、午後一時を過ぎていた。


「ここから桐生が通う高校まで、さらにバスで45分ほどかかるらしい」


 バーガーをコーヒーで流し込み、ようやく目が覚めてきた龍馬がスマホ片手に告げると、

「次はバス? しかも45分も! もう勘弁して、だから田舎大嫌い!」

 碧がコーラをすすりながら、苛立ちの声を上げた。

「そうすか? 俺はけっこう田舎好きだけどな〜」

 ポテトを口に放りこみながら、東海林がのん気に言った。

「あんた、やっぱ旅行気分でしょ?」

「ちがいますって!」

 そう言う東海林だったが、まもなく手にした一眼で外の景色をバシャバシャ撮り始めた……。


「で、その次のバスなんだが……あと40分後だ」


 龍馬が気まずそうに言うと、

「えっ! なんでそんなに間があくの?」

「電車の時間とバスの時間が微妙に合わないんだよ、どういうわけかさ。だから……もう少しここで時間を潰す」

「えぇ――――!」 


「いいじゃないっすか、碧先生。ハプニングは旅の醍醐味ですよ?」


「あっ! 今、ついに『旅』って言っちゃったわねーっ!」

 その後の40分、龍馬は碧と東海林のこんな感じの不毛な言い争いを聞かされるはめになった……。

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