2日目(3)―焦り
私立だが歴史は古く、この地に長くある。伝統的にバレー部とラグビー部が強く、どちらも全国大会の常連であった。特にラグビー部は、部員数も50名を超えており学内で最も人数の多い部活らしい。毎年、県内外の中学から体格や運動能力に秀でた生徒を推薦で多く集めており、それらの生徒のための寮も完備されている。以上が、昨晩、龍馬がネットで得た東城台山路高校に関する知識のすべてだった。
龍馬、碧、東海林の三人は、その高校のほど近くにある、ナイター施設も備えたラグビー部専用グラウンドの前に来ていた。なぜ高校でなくグラウンドに直行したかと言えば、もうまもなく終業時間でラグビー部の桐生はまっすぐここに来るだろうと判断したためだ。また、校門よりこちらで待つ方が目にする人数も絞られ、桐生を特定するのに有利だと考えたからだ。しばらくすると、予想通り続々とラグビージャージを着た部員たちが、一礼しながらグラウンドに入っていく。みな一様に体格がよく、それが50名ともなると圧巻だった。
しかし、どういうわけか三人は桐生の姿を確認することができなかった。
もちろん、龍馬がネットで見つけた桐生の写真は、碧と東海林にも共有していた。つまり、三人同時の目視でグラウンドに入る部員たちの顔をつぶさにチェックしていたのだ。が、なぜか桐生の顔は見当たらなかった。しまいには、練習開始の時間となったのか、キャプテンらしき生徒の掛け声で準備体操が始まってしまった。
まさか、今日は休み?
龍馬の脳裏に嫌な予感がよぎった。
ここまで来て空振りに終わるのか、と。
たまらず、龍馬はグラウンドの端で球拾いをしていた一年と思われる部員に声をかけた。
「ごめん、ちょっといいかな?」
「なんすか? 今、ちょっと練習中なんですけど……」
「一言で済むから」
「はぁ……」
「桐生先輩、なんでいないの?」
途端に、その部員の顔色が変わった。
「――し、失礼します!」
すぐさまそう言うと、龍馬の前から足早に去った。
同様に3名程の部員に話しかけてみたのだが、みなに一様に口を閉ざした。龍馬は、明らかになにか不自然なものを感じた……。
見かねた碧も水を汲みにグラウンドを出た女子マネージャーに話しかけた。
「ねえ、ちょっといい?」
「はい、なんでしょう?」
「ちょっと言いにくいんだけど……」
そして、碧はあえて耳打ちするようにマネージャーに小声で語りかけた。
「うちの高校に桐生先輩のこと好きな子がいてね……じつは、その子から手紙預かって来てるんだけど……桐生先輩って、今どこかな?」
女子マネージャーは、恋愛話だとわかると心なしか頬が緩んだ。
「そう、なんですね……」
しかし、直後やはり微妙な表情を浮かべた。
「じつは……あまり大きな声じゃ言えないんだけど、桐生先輩、ラグビー部辞めちゃったんです。ちょっと部内で不祥事みたいなことがあって……」
「不祥事?」
碧が思わず聞き返した。
と、そのタイミングでグラウンドから監督と思われる大きな声が響いた。
「お――い! マネージャーも含め全員集合!」
「ごめんなさい、呼ばれちゃったみたい……」
女子マネージャーは申し訳なさそうな顔をして、碧に背を向けた。
しかし、もう一度振り返ると「がんばってね」とだけ口だけ動かし、両手をギュッと握るジェスチャーをした。おそらく、碧自身が桐生を好きなんだと勘違いしたようだった。いずれにしろ、ここに桐生がいないとわかった以上、ここで粘る必要はなくなった。
仕方なく、龍馬たちは急いで高校の方に取って返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます