2日目(4)―眼前の脅威

 路線バスは、夕暮れの山道をただひた走っていた。


 車窓には、ほぼ変わることなく緑ばかりが続いていた。

 東城台駅に戻るバスの車内。乗客は龍馬たち3人のみだった。

 最後列の一列シートに3人横並びで座ってはいたが、各々が別々の方向に視線を向けていた。


「ここまで来て、会うことすらできないなんて……」

 龍馬は天を仰ぎ、つぶやいた。

「最初から校門で待てればよかったわね……ま、結果論だけどさ」

 碧はうつむき、ため息をもらした。

「残念でしたけど……しょうがないっすよ」

 夕日に一眼を構えながら、東海林はぼそっと言った。


 あの後、グラウンドを後にした3人は、東城台山路高校の校門に急いだ。

 が、半ば予想した通り、すでにほとんどの生徒が下校するか部活に行ってしまった後で、桐生を確認することはできなかった。

 それでも3人は粘り、校門を出てくる生徒たちに片っ端から「元ラグビー部の桐生を知らないか?」と声をかけた。だが、それが災いのもとだった。まもなく「生徒指導」の腕章を巻き、なぜか手には竹刀を持った教師が現れた。


「おい、貴様らか! 下校する生徒に片っ端から声をかけてる怪しい男女というのは――――!!」


 大声で怒鳴られ、仕方なく三人は逃げるように高校を後にしたのだった……。


「でもさ、彼、なんでラグビー部辞めちゃったんだろうね? さっき、総理くん言ってたでしょ、高校日本代表にも選ばれてたって」

 龍馬が昨晩調べた別の記事には、桐生が一年にして高校日本代表に選ばれたという記事もあった。「一年にして稀有けう逸材いつざいで大注目!」と記事では、めちぎられていた。さらに、別の記事には二年時からは部のキャプテンも務めていたというのもあった。

 高校日本代表に選ばれるほどのラグビーセンスを持ち、チームのキャプテンとしても活躍していた桐生が、なぜラグビー部を辞めたのか? たしかに龍馬にもせなかった。女子マネージャーが言った「不祥事」とは、いったいなんだったんだろうか? しかし、逃げるように学校を離れた龍馬たちには、もはやそれを調べる術はなかった……。


 まもなくバスは、東城台駅に到着した。

 駅前は斜光を浴び、一層寂しい雰囲気になっていた。

「残念でしたけど……しょうがないっすよ」

 バスを降りながら、東海林がまた繰り返した。

 そう言いつつ片手には一眼を持ち、ちゃっかり降車シーンも自撮りしていた。

 この辺りは、四方を山で囲まれているためか日没も早い。みるみる、夕日が山に吸い込まれていき、街灯がパラパラと点灯し始めていた。


「でも、やはりこのまま帰るわけには……」

 立ち止まり、龍馬が言った。

「……そうね。今からでもなにか方法はないかしら?」

 碧も応えた。


「龍馬先生、碧先生、両先生のお気持ちはわかりますよ。でも現状、彼と会えないどころか、なんの接点すらつかめてないんですよ? 探すにしても、どうやって探すんすか? 雲をつかむようなもんで……あっ! なんだったら泊まってきます?」

 東海林は一眼を構えたまま、宿でも探そうとし始めたのか忙しく歩き出した。

「バッカじゃないの! なんで、こんなクソ田舎に泊まらなきゃなんないのよ!」

 碧がそんな東海林を追いかけ、例によって言い争いを始めた。

「いーじゃないっすか!」

「よくないわよ!」

「田舎に泊まろう的なアレですよ♪」

「なにテレビ番組みたいなこと言ってんのよ!」

 ふたりは言い争いに夢中になるあまり、にまったく気づいていなかった。いち早くその脅威に気づいた龍馬が、注意を促そうとしたが、一足遅かった。


「って~な~! ゴラァ~~~~~~!」


 前から来た、田舎のヤンキー風の男の足を、碧は思い切り踏んでいた。

 東海林も、その連れのガラの悪い男の胸にカメラごとぶつかった。


「って! おい、てめえ、どこ見て歩いてんだ、ゴラァ~~~~!」


 見事なまでに、碧と東海林のふたりはその男たちに絡まれた。

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