1日目(15)―インパクト
「――よろしい。じゃ、始めるわよ。これから、私たちはたった6日で未来を変えたいって思ってる。そこまではいい?」
東海林が、うんうんうなずく。
「でも、未来を大きく変えるには、多くの人を物理的に動かす。あるいは、少なくともその気持ちを動かして『未来を変えなきゃ』って思わせないといけない。だとしたら、必要なものはなに?」
「……未来に東京が核攻撃を受けるって証拠、とか?」
「バカね! そんなもん信じる人がいると思ってんの? 私たちみたいに個人的な未来の話でもされない限り、ただの狂人と思われて終わりよ。私が言ってるのはもっと単純な――」
次の瞬間、店員がコーヒーカップを落とし床でカップが盛大に割れた。
店内のほぼ全員が、一斉にその方向を見た。もちろん、碧も、龍馬も、そして東海林も。
「――それ! それよ!!」
東海林の顔を指差し、碧が瞳を大きくして言った。
「今、あなたも私もカップが割れた方を見たでしょ?」
「……はぁ」
東海林は碧の真意を測りかねる表情で応えた。
「つまりね、私たちに必要なのも今と同じことなの。まず人々の注目を集めること。それも、できるだけ多くの人のね。つまり、インパクトこそ、私たちに最初に求められることなのよ」
「……なるほど」
「安心して。なにも爆弾で人を殺そうなんて考えてないから。ただ、さっきのコーヒーカップみたいに、爆弾で人々の注目を集めたいって話なの」
「でも……正直、そんなカンタンに作れるもんなんですか? 爆弾て」
「カンタンよ! 私を誰だと思ってるの?」
「碧は、未来でノーベル賞を受賞する化学の天才なんだ」
龍馬は、そう東海林に耳打ちした。
「えぇ――! ノノノ、ノーベル賞!?」
「そうなの、獲っちゃうみたいなんだー、私」
碧は東海林のリアクションにまんざらでもない顔をする。
「だから碧には、その頭脳で今回の作戦参謀をお願いしている」
「なるほど、すべてガッテンです! 大変失礼しました! 未来のノーベル賞受賞者、碧先生」
東海林は、途端に碧を尊敬の眼差しで見つめる。
「もういいって、証城寺」
言葉とは裏腹に、碧も再びまんざらでない表情を浮かべた。
「はい。ただ、俺の名前は――」
「――で、総理くん。さっきの足りないリソース話の続きなんだけど」
東海林がもどかしそうな表情で碧を見たが、碧は構わず続けた。
「まず人的リソースとしてはね、たとえば『未来の凄腕ハッカー』なんて知らないかしら? 少ない人数で作戦を遂行するなら、メンバーの中にひとりハッキングスキルがある人材が欲しいなって思ったの。それと、あともう一人。ある程度の腕っ節はあるけどバカじゃなくて、大人にも凄みが効かせられるクレバーな武闘派? とでも言うのかな……。とにかく賢くて物理的に戦える人材も必要かなって。どちらの人材も、計画の性質上、私たちと近い年代であることが望ましいわ。ねえ、未来に心当たりのある人材はいない?」
「……後者の方は、ひとり頭に浮かんだ人間がいる」
碧の話の途中、龍馬の脳裏にはすぐあの男の顔が浮かんだ。
「未来の俺の警備を担当してくれたSPのリーダーで桐生という男だ。腕っぷしはもちろん、賢く信頼もできると思う。たしか年齢も俺と同い年だ」
未来の渋谷、龍馬、最期の瞬間。SPの本分を最後まで貫き、身を挺して龍馬を守ろうとしてくれた、あの桐生である。
人間の本質は、ピンチの時にこそ現れる。
龍馬は最期の瞬間の行動を見て、桐生という男は信頼できると確信していた。
「未来の総理付きのSPリーダーね……いいんじゃない? で、今はどこでなにしてるかわかる?」
「たしか、北関東の
「そう。話が早くていいわ。で、前者の方の人材は? 心当たりない?」
「うーん……ハッカー、だよな?」
「そうね」
「さすがにハッカーの知り合いは、ちょっと心当たりが――」
「――じゃ、質問を変えるわ。この先の未来で起きる大きなハッキング事件を覚えてない?」
「ハッキング事件ね……? あっ! ひとつ、とんでもない事件があった!」
「それって、どんな事件なの?」
「――未来の日本で、ハッキング犯罪史上最悪と言われた事件だ」
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