1日目(16)―史上最悪のハック

「――未来で日本のハッキング犯罪史上、最悪と言われた事件だ」


 碧と東海林は、龍馬のその言葉に思わず息を飲んだ。

「沖縄の在日米軍の無人偵察機プレデターが何者かにハッキングされ離陸、そのまま静岡の浜岡原発めがけて飛行した『プレデターハッキング事件』ていう――」


「――えぇ――! それ相当ヤバいっしょっ!!」


「しっ! 東海林、頼むから学習してくれ」

 相変わらず、リアクションの大きな東海林を龍馬がなだめる。

「続けていいか?」

 東海林が、お口チャックのポーズを取った。

「ぶっちゃけ、東海林の言う通り相当ヤバい事件だった。下手すると、東日本大震災の悲劇を上回り、東海と関東にほぼ人が住めなくなっていたかもしれない……」


「てことは、未遂に終わったの?」


「あぁ。異変に気づいた米軍と自衛隊がほぼ同時にスクランブルをかけ、プレデターが原発に突っ込む直前で撃墜したんだ。と言っても、撃墜されたポイントは、浜岡原発まで残りわずか4キロの洋上だったんだけどな」


「そんなにギリだったんだ……」


「あぁ、本当にギリギリだった。しかし、そんな重大事件だったんだけど、この事件は4年もの間、国民には伏せられた」

「はぁ、なんで? マスコミはなにやってたの?」

「あえて沈黙していたんだ。じつは裏で、政府主導のアメリカへの配慮があったんだよ。プレデターがハッキングされたという事実を、当時のアメリカはなんとしても世界に伏せておきたかった。それは国防上の観点でも、武器ビジネスという観点でも。大きく国益を損なうことが明らかだったからだ。少なくとも、誰が、どうやって、プレデターをハックしたかを突きとめるまでは、事件を公にするなと時の日本政府にプレッシャーをかけたんだ。戦後に水面下で締結された、日米合同委員会の密約を盾にね」

「そんな……」


「で、結局、事件が公になったのは事件から4年後の……たしか2025年? そう、2025年だった。発端ほったんは海外のフリージャーナリストによるスクープだった。そうなって、ようやく日本のマスコミも重い腰を上げた。じつは、もうその頃にはハッキングされた世代のプレデターはほぼ現役を退いていた。以降の世代は事件で明らかになったハッキングへの脆弱性ぜいじゃくせいを改善していたんだ。だから、アメリカもこのニュースがおおやけになることを許したんだと思う」

「ところで、犯人は誰だったの?」


「それがな……犯行当時若干18歳の引きこもり少女だった」

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