1日目(13)―超展開

「えぇ――――――――――――――!」


 今度はファミレスで、盛大に叫ぶ東海林がいた。

 周りの客も一斉に、東海林と龍馬の方を向く。なかには、明らかに不機嫌な表情を浮かべる客もいた。

「だから、何度も言わすなって。リアクション&声デカいから。デカすぎだから!」

 龍馬の話が進む度、東海林は何度となく絶叫を繰り返した。度重なるその絶叫に、周りの客が辟易へきえきとするのも無理がないほどに……。


「でっ、でも! 俺の未来、そんな超展開を迎えるんですかっ!!」


 ファミレスに来た途端、饒舌じょうぜつになった東海林を見て「あぁ、やっぱり、あの東海林だ」と龍馬は思い直していた。まあ、よくしゃべるし、天性とも言える大げさなリアクションは、紛れもなく未来の東海林を彷彿ほうふつとさせた。


 ふたりは、東海林の高校からほど近いファミレスに来ていた。校門を出ると、まっすぐこの店に直行したのだ。移動の道すがら、龍馬は碧に報告を入れた。東海林と接触できたと告げると、碧も合流すると言い出した。おそらく、未来のカリスマ配信者をひと目おがみたいとかそんなところだろう。ただ、実際の東海林を見たら、さぞ拍子抜けするだろなとも龍馬は思った。


 碧が来るまで、龍馬は碧と同様これまでの経緯と未来の話を東海林に順を追って話した。最初は疑心ぎしんかたまりのような表情で話を聞いていた東海林だったが、話が自分の未来の話に及ぶとみるみる表情が変わり、先程のような絶叫を繰り返したのだった。それもそうだろう。パッと見、教室では根暗ボッチにしか見えなかった東海林が、未来にはカリスマ配信者として大成すると、ある意味されたのだから……。


 実際、東海林は興奮を隠しきれない様子で、さっきからテンションも上がりっぱなしだった。そして、龍馬の話を信じたようだった。いや、むしろ、信じたかったのかもしれない。主に、栄光ある自分の未来について……。


「カリスマ動画配信者……ですか」


 もはや、東海林の頬は緩みっぱなしだった。

「あぁ、そうだ。何度もそう言ってるだろう」

「マジか〜、そっか〜……でも、やっぱ信じらんないな〜」

「安心しろ、未来のおまえはマジでスゴい。世界的な人気者だ」

「あざーす! 榊さんの話、俺、全面的に信じますっ!」

 東海林は目をキラキラさせ、龍馬に深々と頭を下げた。


「そ、そっか……ありがとな、その信じてくれて」

 恐ろしいほどあっけなく自分の話を信じた東海林を見て、龍馬は拍子抜けした。

「いえいえ、こちらこそ素敵な未来あざーす!」

「いやいや、その未来を切り開くのはおまえ自身だから。でも、正直……だからこ驚いたんだ。その、なんていうか……ギャップに」

 一転、東海林の表情が曇る。

「教室で見た俺と未来の俺との……ですよね?」

「あぁ、そうだ」

「俺……典型的なネット弁慶なんですよ。ネットだと、それこそまったくよどみなくメチャクチャしゃべれるんです! おもしろい話だってぽんぽん思いつくし、それこそ、キャラごと変わっちゃうみたいな感じで! でも……どうしてもリアルだと腰が引けて、なんていうかリアルの人間関係が……ぶっちゃけ怖いんですよ」

 そして、東海林はうつむいた。

「そっか……。俺は未来の無敵なおまえしか逆に知らなかったからさ。高校時代にこうして悩んで葛藤して、未来の成功をつかみ取ったんだって初めて知ることができてさ、なんか見直したよ、東海林のこと。最初からカリスマでスーパーマンみたいなヤツだって、勝手に想像してたから」

 その言葉に、東海林は顔を上げた。

「おまえはさ、おまえが想像している以上にスゴいヤツなんだ。それは未来の親友でもある俺が保証する。だからさ、もっと自信持てよ」

 そう言って、龍馬は東海林の背中をバシッと叩いた。

「……ですよね。未来を信じて、俺がんばります!」

「その調子だ!」

「はい! で、なんでしたっけ? なにか俺に手伝ってほしいことがあるとかないとか……」

「あっ、悪い! 肝心な本題を話してなかったな」

「なんでも言ってください! ひょっとしたら、僕が変わるきっかけにもなるかもしれませんし!」

 東海林は、少し前向きになったのか、なんだか前のめりだ。

「それでこそ未来のダチの東海林だ! じゃ、ズバリ言うぞ!」

「はい!」

 すると、龍馬はぐっと東海林の耳に顔を近づけ、声をひそめて告げた。

「これから6日間で、未来を変える手伝いをしてほしい。もし失敗したら、20年後、東京が核攻撃を受けて、おまえも、俺も、東京も消滅する」


「ゔぇ――――――――――――――――――――――――――――!!」 

 

 それは、東海林の今日一のリアクションだった。

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