プロローグ(7)―怒る聴衆

 聴衆は、一層騒ぎ始めた。


「そっ、それは……制度の問題だろ! 俺たちには、どうにもできない問題じゃないか! むしろ、おまえら政治家のせいだろ! ひ、人のせいにすんな! 俺たちはなにも悪くない!!」

 まさに団塊の世代だったのか、男性は顔を真赤にして叫んだ。


 龍馬は、その声に鋭く返した。

「たしかに、政治の責任が一番重い! しかし、あなた方だって声を上げることくらいはできたんじゃないですか? 長生きであればあるほど、その時間も、チャンスもあったはずですよね? 特に団塊の世代のみなさんは、かつては安田講堂に立て籠もり、あるいは国会を包囲し、机上の空論に終わった革命を声高に叫んでいた世代ですよね? 日本史上、最もボリュームの多い世代であるあなた方が本気を出せば、潮目くらいは変えられたんじゃないんですか? わが国は民主主義国家なのですから。民主主義とは、誤解を恐れずあえて単純化して言えば、多数決ということだ。数で圧倒するみなさんが本気になって世論を形成すれば、20年以上も前から制度限界を迎えていたわが国の年金・社会保障制度にメスくらいは入れられたんじゃないですか? しかし、しかしだ! 実際、あなた方は動こうとしなかった。むしろ、社会保障の受益者になった途端、制度堅持けんじに意固地になった。その根底には、声には出さないが『自分さえよければいい』という浅ましい魂胆があったんじゃないですか? あるいは、もしそのような社会保障の不都合な真実なんて俺は私は知らなかったと言うのなら、それこそ、まさに無知の罪だとは思いませんか? 知らなかったら、不公平な搾取さくしゅを続けてもいいんですか? 無知を振りかざし、自分のことだけ考え、将来世代から自分が払ってきた対価より遥かに多くを無自覚にかすめ取り、いけしゃあしゃあとこれからも生きるんですか?」


 高齢者たちのどよめきや怒号どごうが一気に渦巻いた。

 先程までの歓迎ムードは一転、明らかに反感や敵意に変わっていった。

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