4日目(4)―最強チームの誕生
――同日、20時。
龍馬の家には、昨日と同じくメンバー4人が揃っていた。
例によって話し合いは、今日一日の互いの活動報告から始まった。
碧と桐生のふたりは、予定通り午後のほとんどを爆弾制作に費やしたらしい。
その作業場所は、なんと碧宅の地下ガレージだった。というのも、碧宅は郊外の一軒家で隣家からも遠く、その地下ガレージには一台の車が停まっているのだが、彼女の父親がペーパードライバーで、まったく使われていない状態だったという。安全性と機密性を守る意味でも、場所としては最適だったと碧自身が言っていた。
実際、誰にも見知られることなく、爆弾はほぼ完成したらしい。火薬の取り扱いに慣れていた桐生の手助けも大きかったことは、言うまでもない。現在もその爆弾は、碧宅のガレージにあるらしく、彼女の父の使われなくなって久しい車のトランクの中に収まっているらしい。
未来のノーベルプライズウィナーの碧の手によるものだから心配はないだろうが、碧の両親、とりわけ父親には申し訳ない気持ちになった。一日二日とは言え、自分の愛車のトランクに至極物騒なモノが入ってるわけだから……。
続いて龍馬と東海林の報告となったのだが、東海林が何も言わずにパソコンをちゃぶ台の上に置いた。それは報告代わりに、スカイプで百武を碧と桐生に紹介しようと考えてのことだった。まもなく、ディスプレイにスカイプ画面が立ち上がり、その画面にうつむきがちで恐ろしく肌が白く、か細い美少女が現れた。
彼女を初めて見る、碧と桐生が思わず画面を凝視する。
「かっ……かわいい〜」
碧はまるで小動物を愛でるような目で百武を見て、つぶやいた。
「もしもし、聞こえてるかな? 未来ちゃん」
東海林が最初に画面に向かって声をかけた。
じつは、あの後、東海林と百武は、元々ふたりの共通項であったゲームの話で盛り上がり、龍馬が止めるまでしばらく楽しそうに話し込んでいたのだ。その間に東海林は、いつの間にか百武のことを「未来ちゃん」と呼ぶほどに打ち解けていたのだった。
「……はい。聞こえ、ます」
百武がうつむいたまま、小さく答えた。
すると東海林を押しのけ、碧が話しかけた。
「ちょっと証城寺、邪魔! 未来ちゃん? 私は如月碧。見たまんまハーフで高2よ。私の方がちょっとお姉さんだけど、女の子同士仲良くしてよね♪ 未来ちゃん、本当にかわいいんだけど〜」
いつものような高圧的態度は
「おっ、恐れ多い、です。き、如月さんの方こそ、とんでもなくかわいくて、緊張、しました。よろしく……お願いします」
碧は、その言葉により頬を
「ほら、笑顔で挨拶! 未来ちゃんが怖がっちゃうでしょ?」
そう言われた桐生は、龍馬が見ても不自然な笑みを浮かべ、
「あぁ……桐生
と言った。
直後、百武は手近にあったクッションに顔を埋め、一歩退いた。桐生なりに精一杯の笑顔を作ったのだろうが、逆にそれが不自然で怖かったらしい……。
「龍馬……俺は、今、地味にショックを受けている」
桐生が落ち込んだ表情で、龍馬にだけこぼした。
龍馬は、そんな桐生の肩をポンポンと叩くと、仕切り直すようにこう言った。
「よし! これで全員自己紹介は済んだな? じゃ、記念すべき第一回目の全体ミーティングを――」
と、画面の向こうの百武がそっと手を挙げ、小声で遮った。
「――あっ、あの。その前に、私も……自己紹介、させて、ください」
その言葉は、龍馬にとって意外だった。きっと、長く引きこもっていた百武には、このスカイプさえ大変な心労を強いているはずだ。それでも、百武は勇気を出して自ら自己紹介をしたいと声を上げたのだ。ひょっとすると、彼女なりに彼女の未来の運命に
だからこそ、龍馬はうれしかったし、胸が温かくなった。
「……悪い、そうだよな。百武の自己紹介がまだだった。じゃあ百武、お願いできるか?」
龍馬は、笑顔で百武に改めて聞いた。
「……はい。百武未来、と言います。もうご存知かと思いますが、長く……引きこもっていて、人とこうして話すのも、正直、久しぶり、です。こ、こんな私ですが……少しでもお役に立てればと思いますので……どうか、よろしく、お願いします」
途切れ途切れだけど一生懸命に自分の言葉を伝えた新しい仲間を、4人はやさしい笑顔と盛大な拍手で迎えた。これを機に、百武自身の将来も少しずつ変わることを龍馬は切に願った。
◇ ◇ ◇
その後、引き続き百武も加わった初めての全体作戦会議が行われた。
龍馬は、百武に「最初は俺たちの話を聞いているだけでもいいから」と告げたのだが、百武は自分の言葉をそれ以降も一生懸命に紡いでくれた。他の4人も、百武が話す番になると彼女のペースに合わせ、その言葉を静かに待ち耳を傾けた。そうすることで、百武も徐々に打ち解け、最終的には想像以上にこの話し合いは熱を帯びた。
会議が白熱した理由は、百武の参加により昨日まで「不可能」と思われていたことが、まるでオセロのように次々に「可能」に変わっていったことだった。
最初に、碧が中心となり作戦の詳細を順を追って説明し、どのような作業が必要になるかと百武に紐解くと、
「それなら……私、できるかも、です」
と何度も応えてくれたのだ。
その見た目からは想像できない、ITリテラシーやハッキングに関する知見やスキルの深さに4人は舌を巻いた。未来の最強ハッカーの実力は、まさに伊達ではなかったようだ……。
碧、東海林、桐生、そして百武。
未来のノーベル賞受賞者に、未来のカリスマ動画配信者。さらに、未来の総理付きSPリーダーに、未来の天才ハッカー。龍馬がいた未来で、ある意味
白熱しながらも時折り笑顔で、議論をある意味楽しんでいる4人を見て、龍馬は密かに何度も頼もしいと思ったし、胸が熱くなった。
――この4人となら、あるいは、本当に未来を変えられるかもしれない。
夜中近くまで続いた議論の最中、龍馬は本気でそう感じていた。
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