6日目(10)―憶測

 ――17時50分


 龍馬たちメンバーのヘッドセットに、百武の緊迫した声が響いた。

「こちら05。た、大変です! 念のため、隣のビルの監視カメラもハックしてみたんですが、向かいのビルの最上階に警察の特殊部隊と思われる人影を見つけました」

「こちら01、了解。それが本当なら警察はまた警告を無視したことになるな。05、可能なら近隣の他のビルの監視カメラも確認してもらっていいか?」

「01、了解です」

「多分、SATね」

 碧がつぶやいた。


 予想はしていたが、SATの展開が思いのほか早いのが気になった。

 ――まさか、すでに強行突入の準備を? 

 龍馬の心臓が早鐘を打ち始めた。


 SATにまともに突入されたら、おそらく龍馬たちに勝ち目はない。総理との直接対話という目論見も潰えてしまう。

「政府にガツンと言ってやりましょう! このままにしたら、つけあがるわ!」

 碧が腹立たし気に言った。

「だろうな、さらになにかペナルティを与えるか……」


 すると、百武から追加報告が入ってきた。

「こちら05。他の監視カメラも確認しました。向かいのビルの他に、右隣と後方の2つのビルにも特殊部隊と思われる人の姿を確認しました!」

「こちら01、了解。つまり、警察は3箇所で我々の警告を無視しているっていうことだな?」

「その通りです! そちらの死角を利用しているんだと思います」

「05、了解。これから生放送を再開する。さっそく、今もらった情報を突きつけ、その愚かさにペナルティを与える」

「ペナルティ? どうするんですか?」


「――1時間、制限時間を早めてやる」



 ――18時30分


「警察は独断で何をやってるんだ! 一度ならず二度までも!!」


 官邸の菱川は、警察庁長官の門脇かどわきに直接電話を入れ、珍しく怒鳴っていた。

 数分前、龍馬たちが生放送を再開すると、寸分違わずSATの待機位置を言い当てたのだ。加えて、それが警告した半径100メートル以内であったことも非難し、ペナルティとして一方的に制限時間の1時間の短縮を通告してきたのだ。


 もちろん、その情報はテレビやネットでも速報された。

 結果、警察はもちろん政府に対しても国民やマスコミから非難が集中した。

「誠に申し訳ありません、官房長官。しかし、なぜ犯人グループが我々の正確な位置を特定できたのか検討もつかない状況でして……もはや内通者でもいるとしか……」


 その発言が、さらに菱川を激昂げきこうさせた。

「内通者? それじゃ、もう警察にはなにも任せられないじゃないか! 動けば、すべて犯人に筒抜けってことでしょうが! ちがいますか?」

「いっ、いや、内通者はあくまでも可能性でして……それくらいしか犯人に情報が伝わった理由が考えられないという……」


「もういい! 犯人の特定については進展はないんですか?」

「じつは、その件もあまり……あっ! 少々お待ちください!」

 門脇は、一旦、電話を保留にすると、先程、事務方から届いたばかりの捜査状況のメモに目を落とした。そこに書かれていたが目を引いたからだった。


 門脇は、まだ確信のない情報だが、警察の成果としてこの情報を菱川に伝えようか逡巡しゅんじゅんした。あの静かな菱川の、影の総理の激昂は、それほど門脇を焦らせたのだった……。


 門脇は意を決っすると、保留を解除し早口でまくしたてた。

「お待たせしました! 警察の方で、人質となった参加生徒の名簿を手に入れました。さらに先程、先に犯人に告発された校長と教育長を取り調べたところ、犯人は都立港館高校内部の人間に違いないと両名ともが証言いたしました。参加者名簿を見る限り、都立港館高校の生徒は2名が会議に参加予定でしたが、1名は急遽欠席したとのことで残り1名のみが、現在、ハーバースクエア内にいる模様です。警察は、この1名が犯行グループとつながっている可能性が極めて高いと考えています……」


 じつは、最後の一言は門脇の憶測でしかなくメモにも書かれていなかった。

「ほう……それで、その怪しい生徒というのは具体的に?」


「――都立港館高校2年、生徒会副会長の榊龍馬という生徒です」

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