1日目(11)―カリスマの過去
校内に侵入した龍馬は、そのまま堂々と昇降口から校舎に入った。
授業中のためか昇降口には誰もいなかったし、昇降口以外のたとえば窓などから侵入する方がよほど怪しまれると思ったからだ。
自信がない時こそ、あえて大胆に。
これも政治家経験から、龍馬が学んだ教訓だ。
身体は、心に先立つ。萎縮した振る舞いは心の余裕も奪い、やがて失敗につながる。龍馬が新党代表の立場で場数を踏めば踏むほど、確信したことだった。
目指すのは、「彼」がいる2年の教室。龍馬は、1階から上階へと教室のプレートを確認していった。幸い授業中で、廊下には人ひとりいなかった。まもなく、龍馬が入った建物の3階部分に2年の教室が集まっていることがわかった。そして、ちょうどそのタイミングで、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
一斉に廊下に生徒や教師が
「
A組の教室の扉の前で、真っ先に目があった女子生徒に話しかけた。
「ショウ……ジ?」
「あっ、ごめん。いいや」
その表情を見ただけで、龍馬はA組に彼はいないと即断する。
――
それが「彼」の名だった。
東海林なんて、滅多にいる苗字じゃない。学年におそらくひとりいるかいないかだ。だから、龍馬は直接聞いた方が手っ取り早いと考えたのだ。
同じ方法でD組までいったところで、龍馬の作戦は見事に功を奏した。
「あぁ、東海林ね。東海林なら、ほら、あそこ」
声をかけた男子生徒が、窓際一番後の席を指差した。
そこには、休み時間に騒がしく話すクラスメイトを横目に、ひとり静かに文庫を読む、ねこ背にメガネの地味な生徒がいた……。
……まさか、あれが東海林?
最初は、人違いかと思った。
あまりに、未来の印象とかけ離れていたからだ。
未来の東海林は、見た目も中身もとにかく晴れやかな男だった。いつも仲間たちの真ん中にいて、
が、眼前の男子高校生は、まったく対照的だ。
むしろ、自ら自分の存在感を消しているのではないかとすら思える。
念のため、改めてその顔を見直す。
顔の特徴は……一致する。
というより、メガネ以外、龍馬の知る東海林の顔とほぼ変わらない。
どうやら、あの地味な生徒が未来のカリスマ配信者、東海林一郎に間違いない。
とにかく……話しかけてみるか。
龍馬がそう思った矢先、タイミング悪く授業の始まりを告げるチャイムが鳴った。しかも、次の授業を担当すると思われる教師も早々に教室に入ってきてしまった。だが、ここまで来て、また一限分時間を無駄にするのも惜しく、龍馬はとっさに次のような行動に出た。
すっと東海林の脇に移動すると挙手し、こう教師に告げたのだ。
「先生! 東海林くんが頭が痛いそうなので保健室に連れていきまーす!」
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