1日目(3)―国家レベルの天才

「B組の榊だ。君に相談したいことがある」


龍馬は、頭を切り替え努めて冷静に語りかけた。

今は、郷愁や感傷に浸っている暇などない。


「ん……サカキ? あぁー、生徒会副会長で万年2位の……Mr.セカンドくん?」


 さして興味もなさそうに碧が言った。当時、龍馬は生徒会副会長だった。これは、大学への推薦を得たいという打算も大きかった。さらに、龍馬はいわゆるガリ勉タイプでもあった。万年2位とは、学力テストの学年順位だ。通っていた都立港舘みなとだて高校は都立でも屈指の進学校だったが、龍馬はその中でも常に傑出した成績を残していた。しかし、どんなに懸命に努力しても唯一敵わない相手がいた。その相手こそ、碧だった。


 正直、相手が悪すぎたのだ。

 実際、碧は一言で言えば天才だった。それも、、だ。


 この後、碧は飛び級でアメリカの大学に留学するや、旧来と異なるビッグデータ解析によるアプローチで化学という学問そのものを大きく前進させる。そして、2037年にはノーベル化学賞を日本人女性として初めて受賞するという快挙を成し遂げる運命にある。そのたぐいまれな美貌びぼうも相まって、未来で彼女はちょっとした時の人だ。日本のみならず、グローバルの若き知の巨人として……。


「俺の名前は、Mr.セカンドじゃなく榊だ。常に学年トップだが授業はまともに受けず、ウチが公立にも関わらず学校から明らかな特別扱いを受け、用意してもらったこの第二化学準備室ラボに引きこもり、早朝から謎の実験に勤しんでいる如月きさらぎミランダあおいさん」

「……な、なによっ! いきなり入ってきて、嫉妬? ねえ、嫉妬なんでしょ!」


 碧に対し、決して下手に出てはいけない。

 これは元恋人としての龍馬の経験則であり、鉄則であった。

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