1日目(4)―タイムリーパー

 龍馬と碧がつきあっていたのは、

 龍馬が米国留学していた大学2年の頃の話だ。


 互いに、十代最後の年だった。


 たまたまキャンパスで出会ったふたりは、かつて日本でも同じ高校に通っていた「偶然」を「運命」だと感じ、そして信じた。ふたりとも、それまでは夢中なるものが他にあって、正直、色恋には疎かったし、まあウブだったのだ……。


 当時、碧は誰にでも好戦的で、特に男性にはそれが顕著だった。半分は、自分以外の人間は大概バカだと思っていたから。しかし、もう半分は、人づきあい、特に男性とのつきあいが苦手な自分を隠すためのよろいだった。その鎧を龍馬がいち早く見抜いたことも、ふたりの距離を縮めるきっかけとなった。

 

 だから、龍馬はあらかじめ知っていたのだ。眼前の高校生の碧との会話で下手したてに出てはいけない、と。むしろ強気に仕掛けることで、男性が苦手な碧を怯ませ、この困難な交渉を少しでも有利に進めたかった。話し方もできるだけ感情を押さえ、クールに語ることを心がけた。


「嫉妬なんかするわけがない。君は天才だ。それは認めている。その上で、相談したいことがある。端的に言えば、君のその天才的な頭脳を借りたい」


「天才的な……頭脳ね」


 途端に、碧がまんざらでもない顔をする。

「具体的には、俺とに参加してほしいと思っている。その中身を語る前に、その前提となる話をまずさせてほしい。正直、きっと信じ難い話だ。だが、少なくとも君の知的好奇心を刺激できる話だとは思う。君がハマっている『謎解き』くらい、いやそれ以上にはね。もちろん、参加するかどうかのジャッジは、話を聞いた後で構わない」

 龍馬は、一気にまくし立てた。ちなみに、碧が高校時代「謎解き」に凝っていたのは、後の彼女自身から聞いた話だった。


「朝からよくしゃべるわね、Mr.セカンドくん。そんなキャラだったの? ……って、ん? でもさ……私が最近『謎解き』ハマってるって、どこで知ったの? ま、まさか、私のことどっかで覗いてた? スス、ストーカー!?」

 碧が両腕で自分を抱きしめるようにし、警戒の目を向ける。


「安心しろ、どちらでもない」

 まさか、未来の恋人だとは言えなかった。


「ま、それについても、これから話す話を聞けば理解してもらえるはずだ」

 碧はしばらく龍馬をにらんだ後、観念したように返した。

「……わかったわ。話だけは、聞いてあげる」


 一方で、碧には異常に鋭いところもあった。いわゆる“女の勘”なのだろうが、龍馬の嘘はいつも見破られた。だから、肝心なところは小細工せず、最初からストレートに話そうと龍馬は決めていた。そのため、躊躇ちゅうちょなく次の言葉をぶつけた。



「――俺は、未来から来た」

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