1日目(6)―未来の因果

「――すまん、無意識で」


 自分が碧の手を握っているとようやく気づいた龍馬は、その手を離した。

「でも、協力してくれるのか? 本当に」

「……何百万人の命とか言われたら……たとえすべてがあなたの妄言だったとしても、ちょっと無下にできなくなっただけだからね」

 少し歯切れ悪く碧が応えた。その頬はまだ少し赤かった。

 それにまだ気づかない龍馬が、笑顔で言った。


「ありがとな、碧! 碧なら、そう言ってくれるって信じてたよ」


「――あっ、碧って、今、私のこと呼び捨てにしたでしょ!」

「……ん? あぁ、未来ではそう呼んでたから、つい。嫌なら直すぞ?」

「そ、そうなんだ……ま、いいけどさ」

 碧はやはり落ち着かないように、目を彷徨さまよわせた。

 そんな碧の機微に龍馬はやはり気づかないまま、さっそく切り出した。


「さっきも話したが、碧に考えてもらいたいのは、ズバリ、6日間で未来を変える方法だ!」


「そう、だったわね……」

 碧は、無意識に頬を手で仰ぐようにして言った。

「なんか暑いか?」

「暑くないわよ! まったく――」

 自分の発したこの言葉で、ようやくまたペースを取り戻した碧が続けた。

「――でも改めて聞くと、本当に突拍子もない話ね」

「まったくだ。俺もない頭で考えてはみたんだが、正直、まったくいいアイデアが浮かばなかった……」

 落ち込んだ表情を見せる龍馬を見かねたのか、碧が応えた。


「厳密に言えばね……あなたがタイムリープしてきたことが事実なら、未来はすでにほんの少し変わってはいるはずなのよ」


「――えっ、そうなのか?」

「そう。だって、今朝あなたが私にこの相談を持ちかけてきた時点で、あなたが過ごしてきた過去の時間軸と今の時間軸には差分が生じているはずでしょ?」

「差分? そう言われると、たしかに……。今朝、俺が碧に相談した未来と相談しなかった未来は微妙に変わるってこと、か?」

「そう。でも、あなたが言う20年後に東京が核攻撃を受けるっていう未来を変えるには、この程度の差分じゃちょっと……いや、全然足りない気がするかな」


「差分が、足りない?」


「そうよ。因果関係で言えばね、過去が『原因』で、未来が『結果』ってことになるでしょ?」

「あぁ」

「それで言えばね、20年後の核攻撃という『結果』を導いた『原因』を探って、その原因を打ち消す、もしくは変化させることができれば、未来は変わるはず」

「なるほど……」

「でもね、その『原因』って、さっきあなたが言ってた、この国の少子高齢化やそれに伴う国力の低下、国防力の低下って、けっこうマクロで複合的な話な気がするの……」

「だよな……。せめて、2010年代から改革がなされていれば……」

「政治改革ってこと?」 

「あぁ、これでも一応、未来では政治家なんでな」

「でも、6日じゃ政治改革なんて到底無理でしょ? 未来の総理くん」

 少し皮肉めいた声で碧が返した。

「そうなんだよ! そこで今朝の俺の考えもスタックしたんだ……。6日という短期間で、それこそ革命的に物事を動かさないと――」


「――ちょっと待って! 今、なんて言った?」 


「短期間に?」

「その後よ!」

「その後? 革命――」


「――それよ!」


「はっ?」

「よし、考えるスコープが見えたわ! 今から少し集中して考えるから、総理くんは、ちょっと黙ってて」

「えっ?」


「――いいから、黙ってて!!」


 そして碧は、再び立ち上がると室内を行ったり来たりし熟考し始めた。

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