3日目(4)―もうひとつの大義

 今日一日、龍馬たちは役割分担しようと決めていた。


 計画がおぼろげながら見えてきて、やるべきタスクも具体的になってきたからだ。作戦当日までに、それらをひとつ一つ効率よく潰していく必要があった。


 龍馬と桐生は、桐生の実家のある県に飛び、火薬を入手し持ち帰る。

 東海林は、全国生徒会会議の会場となるハーバースクエアを下見し、見取り図を作成する。

 碧は、さらに作戦の細部をラボで詰め、より実効性と実現性を高めた具体プランを策定する。


 作戦実行まで、今日を入れてもわずか3日。


 碧以外、学校を休みフル稼働で準備を進めることにした(碧も学校には行っているが、実質ほとんどサボっているようなものだったが)。龍馬としては、母との約束だけが気がかりだった。しかし、学校に連絡を入れ無断で休まなければ許容範囲だろうと自分を納得させた。なにしろ、時間がなさ過ぎる。母には後でちゃんとびようと思った。


 龍馬、桐生、東海林はコーヒーを飲み干すと、すぐさま出かける準備をした。

 が、そのタイミングで龍馬の携帯が鳴った。


「あの……御影石みかげいしです」


 最初、それだけ聞いても一瞬誰だか龍馬にはわからなかった。

「御影石たえです。自殺した御影石陽斗はるとの姉の……」

 そこまで聞いて、龍馬は一昨日に校門で会った妙の顔を思い出した。

「あぁ……榊です。どうしました?」

 と応えつつ、聞かれる内容はすぐに思い当たった。

「朝から電話してしまって、ごめんね。それで……陽斗のことなんだけど。なにかわかったこと……あるかな?」

 やはり、死んだ御影石陽斗についてだった。

 しかし、この件は碧に託した後、進捗を聞いていなかったため、龍馬には今すぐ答えられる情報はなにもなかった。

「すみませんが……まだなにも」

「……そうよね」

 妙の声があまりに悲しそうに聞こえたので、つい龍馬は付け足した。

「でも、友達にも聞いているので……」

「本当に?」

 電話口でも、妙の声が弾んでいるのがわかった。

「はい。ただ、その友達もまだ話が聞けているかどうか……」

「いいえ。わざわざ、お友達にまで聞いてくれたのね。榊くん、ありがとう」

 そう言われ、自分では何もしていなかったことに龍馬は少し心が痛んだ。

「あ、そう言えば榊くんって生徒会の副会長なんですって? 他の生徒さんに聞いたんだけど」

「はい、まあ……」

「すごいわねー、榊くん。しっかりした顔してたもんね。生徒会も忙しいでしょうに、無理なお願い聞いてもらってありがとうね」

「いいえ。では……友達の話聞けたら折り返します」

「本当にありがとう、榊くん。ありがとう」

 妙は、何度もありがとうという言葉を重ね、電話を切った。


 隣でそれを聞いていた桐生が尋ねた。

「龍馬、今の電話は?」

「いや、俺たちの作戦とは関係ない」

「そうなのか? 少し深刻そうに聞こえたが……」

 その時、龍馬の脳裏には校門で見た妙の悲しい横顔が浮かんだ。

「悪い、先に駅に向かっててくれないか? 一本だけ電話させてくれ。すぐに追いかけるから」

「わかった、じゃあ先出てるな」

「俺も同じく」

 一足先に、桐生と東海林が家を出ていった。

 すぐさま龍馬は、碧に電話をかけた。


「……あぁ、あの件ね。今、人を使って探ってるから折り返してもいい?」


 碧もさらにその先に誰かを使っているらしく、こう答えた。

 電話を切ると、龍馬も慌てて家を出た。

 ところが、道すがら、思いのほか早く碧から折り返しがあった。

 電話口で、碧は開口一番こう叫んだ。


「まさかのビンゴよ! 私たちにテロルにもうひとつのができたわ!!」

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