登るぞ、ブリーフ山の巻

 左のお乳首さんに去って行った花山さんを助けるために、大統領らは胸毛の上を飛んで移動しようとした。

 しかし、そこに立ちはだかったのは、幸運のペンダントを通販で買ったかのごとく両脇に若い男をはべらし空を飛ぶ改造チチンコ族のババァども。七十を過ぎてやってきた春、強過ぎるババァ達の前になす術が無くなってしまっていた。



 策と金を失った男どもは、今日も芸もなく市役所の会議室に集まっていた。馬鹿なことに男しかいないむさ苦しい部屋にも関わらず、窓を締めきった状態でだ!


「急がば回れ。と、言います大統領」


 秘書、セーター編む男が口火を切って、大統領にアドバイスを送る。この、大統領が話に困ったら、サッと読むメールを差し出す、深夜ラジオの放送作家の様な手際の良さこそ、大統領の右腕にふさわしい男だ。


 秘書はこう言いたかった。


 胸毛から攻めると撃ち落とされる。そこで、巨人の顔の方へ迂回して、ぐるっと回って攻めるという作戦だ。

 これは日本の主婦層にも、スーパーへの道が工事中の時、遠回りをしてスーパーへ行けば便利だとして、積極的に取り入れられている戦法である。


 大統領はその作戦で行くことにし、翌日、OH! HANAYAMA! を顔の方に向けて飛ばした。


 しかし、


 どかーん!


「何があった!」


 今まで以上に派手な花火に、一同はパジャマ姿のままで市役所に集まった。

 顔の方に飛び立ったはずのOH! HANAYAMA! はまたしても胸毛上空(胸毛空)で爆発してしまったのだ!

 これは迂回したはずの主婦が、なぜか工事中のショベルカーを操縦していて、怒られたような、うっかりミスである。


 明らかな秘書の凡ミス! 大統領の右腕の座を奪い取るべく、ここぞとばかりに市長が詰め寄った!


「テメェ、あれほど顔に飛ばせって言ったよな! なんで胸毛に飛ばしてるんだよ!」


 お? 喧嘩か?


 と、市長が秘書の胸ぐらを掴むや、周りの市役所の職員達が一気に二人の周りを取り囲んだ。軍人時代の男子ロッカーを思い出させる光景に一気に会議室はヒートアップ!


「どっちが勝つかを俺のシックスバックに書け!」と賭け事の堂本を始めるために服を脱ぎ出す輩まで現れた。しかも二人。

 この二人の裸のどっちに名前を書くか、という水面下の争いもその場で始まり、会議室は一気に混乱を極めた。


 体毛が多いと字が滲む。


「でやあ!」


 ここで市長の必殺『クロスほっぺにちゅ』が炸裂!! この、相手の右ストレートパンチにウブな15歳の恋心で反撃する大技が炸裂し、勝負あった。


 市長は秘書の拳を掻い潜り、ルージュを塗った唇でほっぺに直撃した。


 勝者は市長。


 この時、一介の軍人は実質の大統領の右腕にまでのし上がったのだ。


「とまぁ、冗談はこの辺までにして」


 と、市長は唇のルージュを落としながら、会議室の席についた。「おい! 会議室で裸になるな!」と賭けの堂本を注意する市長。


「しかも二人だと!」


 これには市長も驚きだ。乳首に矢印で「ハム」といたずら書きされている男までいた。


「で、何故、撃墜されたんだ?」


 低次元な祭りの熱が引いて、大統領が口を出した。


「くしゃみです」


 ほっぺにキスマークをつけた秘書が答えた。「おい! キスマークは消せ! ハワイじゃないんだぞ!」と、二位に浮上した市長が三位に怒鳴った。


「しかも二つだと!」


 市長は椅子から飛び上がって驚いた。「こいつは飛んだモテ男だ!」と呆れたように言った。「お前がつけたんだろ」と大統領の右腕に言い返す勇気のある男は、その会議室には存在しなかった。


「くしゃみだと?」


 大統領は話を戻した。


「巨人はどうやら、花粉症のようです」


 なんだって!


 秘書からの言葉に会議室は騒然となった。


「え? 今って春だったの?」

「季節とか全然、意識してなかったな」


 そう、巨人の上にいてみんな気付かなかったが、世間はすっかり春、出会いとお皿の季節であった。


「それは、本当なのか?」


 大統領は睨んだ。三位には厳しい。己の過失を誤魔化すためにテキトーなことを言ってるだけではないのか?


「そういえば、大統領、我々も気づいたらいつも手を繋いでいますぞ!」


 市長に言われ、大統領も「おお、そうだ!」と気付いた。

 最近、大統領と市長は移動する時、何故かいつも手を繋いでいた。この前の会議の時もである。二人セゾン。

 そして、最近の市役所は、家に帰る時は如実に手を繋いで職員全員が横一列になって帰っていた。


「じゃあ、春だな」と、大統領も納得した。春は、仲良しの季節。


「それが胸毛の上空で爆破と何の関係があるんだ!」


 大統領が机を叩いて、また怒鳴った。


 おお、そうだ! 騙されるところだった。それはそれ! これはこれ! 春がどうした!


「このクシャミの風圧によって機体が胸毛の方へと吹き飛ばされてしまいようです」


「なんだって!」


 つまり顔の方に行くとくしゃみで風がプシューと吹いてきて、胸毛の方に押し戻されるらしいのだ。


「つまり、急がば回れはできないのか?」


「はい。そういうことになります」


 秘書がそう断言した瞬間、


「そういうことじゃねぇじゃねぇだろ!」と、市長がまたここぞとばかりに突っ込んだ。

 二位に甘んじる男ではない。ここで、とどめを刺して三位に転落したコイツとのゲーム差を広げなければならないのだ!


 お? 喧嘩か!


 またしても全裸になる堂本! 三人。「俺のシックスバックにコボちゃんを描け!」と上田まさしもいないのに無茶振りをする!


 市長! 市長! 市長! 市長! 市長! 考え落ち!


 下馬評通り、市長がまたしてもクロスほっぺにちゅを狙って右ストレートにキスを合わせた。


 急がば回れである。


 またしても秘書のストレートをかわしながら、ほっぺにキスのカウンターを狙う。


 しかし、今度は市長が唇を尖らせた先に、なんとさっき自分が残したキスマークが!


 大ピンチ!


「このままでは、さっきの自分とキスをしてしまう!」


 市長は自分で言うのもなんだが、鏡に映った自分を「きもい」と思っていた。


『俺が俺じゃなかったら、絶対、俺とは友達にならない』


 それ市長の座右の銘である。軍人試験の面接もそれで受かった。


「逃げろお!」


 グギッ!


 自分をキスをしてしまいそうになって緊急回避した市長の首から、鈍い音が聞こえた。

 市長はそのまま床に崩れ落ち、三位に転落した。


 唯一の明るい話題は、誰かが描いたコボちゃんの真似の漫画はとっても面白かったことである。

 会議室の職員、全員、男の腹筋に描かれたコボちゃんに爆笑だ。

「2コマぁぁ!」と言って、ズボンを下ろし、両尻に書かれた二コマのコボちゃんも面白かった。


「まだ、可能性はあります」


 ここで二位に再浮上した秘書がまたしても話を戻した。みんな、席についた。市長も。

 市長の首が、一生分寝違えたように、すごい方向に曲がっていた。大統領はそんな市長とずっと目が合っていた。口から血を流していた。出てって欲しかった。


「どうする?」


「回り道はもう一方あります。股間から攻めるんです」


 股間からだと……しかも、攻めるだと……


 秘書のこの発言に、会議室は今日一の盛り上がりを見せた。


 いよいよ、股間! 男の禁断の地帯に侵入だ! コイツやりやがった! 最高のクソ野郎だぜ!


「お母さああああああああああああああああん!」


 テンションが最高に上った市長が首が曲がった状態で窓から叫んだ。


 今、ここが、この瞬間のこの場所が、今年の春の一番のピークであった。


 だが、下品な歓声の中、大統領は冷静だ。花山さんがかかっている。


「しかし、股間だって毛は生えているだろう?」


 大統領の言った言葉でまたしても冷静さを取り戻す会議室。そうだった。忘れてた。


「ご安心を」


 なんだと?


 秘書が言った。


「幸い、巨人はブリーフを履いています」


 ほぅ。

 これに会議室の一同は謎の笑みを浮かべて頷いた。さぞ大きなブリーフなんだろう。


 このブリーフは誰が作ったのかも、いつ作られたかも分からない。だが、巨人は確かにブリーフを履いていた。理由は、履いているからである。


「ブリーフ山を越えれば、胸毛を通らずに左乳首に行くことは可能です。ですが……」


 ここで秘書は言葉をつまらせた。


「なんだ? なんだ?」と市長ら、元軍人どもか顔を見合わせ、秘書を見た。


 言葉を詰まらせている秘書。


 これに市長は合点が言った。そういえば、この秘書は今まで一度も下ネタを言っていない。


 股間。


 恥ずかしいんだな。


 股間。


 何を恥ずかしがる。


 股間。


 言えよ、柔らかく言えよ。


 股間。


 下ネタは柔らかくだ。


 子犬。


 市長は、秘書の肩を叩きながらそう心の中でポエムを読みながら励ました。実質、二位に浮上した。土壇場での大逆転劇だ。


 当たり前だが、秘書にポエムは聞こえていない。


 ここで、秘書の口が眠りから覚めた。


「ブリーフ山の標高はOH! HANAYAMA! ですら超えることができません。ですから、山を歩いて越えなければならないのです」


 何だって! シモ発言じゃないの!


 市長は目を丸くした。この状況ですら下ネタを言わないとは、コイツは鋼鉄のアホだ。


「逆に言えば、チチンコ族も追っては来れないと言うことだ。花山を助けるためだ。行くしかない!」


 大統領の決意は固まった。アロンアルファを彷彿とさせる、二秒くらいで固まった。


 ブリーフ山、登頂に向けての情報集めが始まった。標高は高すぎて宇宙にまで達していた。


 大統領は頭を抱えた。


 てか、巨人、花粉症だったの? と、みんなが疑問に思った。


 登るぞ、ブリーフ山。







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