七面のボス現るの巻
市民の数がちょうどゾロ目になったが、これといった変化はなく、数日が過ぎた。市長が女子高生病にかかっている最中、大統領は空から見たハムの状況を確認していた。
新しいことに挑戦していく気持ち、それが右……右……右……新しいことに……新しいことに……それが右……右……右……
「だあああああああああああああああああああああ!」
が、何度確認しようとしても、会議でダダ滑りした時の恥ずかしい自分がリフレインしてきて、全く集中できない。恥ずかしすぎて「わかった、わかったから殺してくれ」と昨日から何度、つぶやいて壁に頭をぶつけたことか。
「ナマハゲだ、ナマハゲだのせいだ!」
大統領はそう言ってギリギリの瀬戸際で正気を保っていたのだ。
大統領の言っている事はあながち間違っていない。あの会場はナマハゲ対ハブの試合がグダグダになってしまったがために、客が完全に死んでいた。
例えるなら、セルジオ越後が3時間ほど日本サッカーの悪口を語り、その後にデーブスペクターが3時間ほどクソ寒い親父ギャグを並べ、トドメに女優の小雪が3時間無言だった講演の後に、どんなお笑い芸人のコントを見たところでウケるはずが無いのだ。
大統領は手に持っていた資料を握りしめた。
「なぁまぁはぁげぇぇぇぇ!」
演説すれば滑り知らず。その大統領が生まれて初めて滑ったのだ。それも盛大に。
生まれて初めて話した言葉が「諸君!」だったほどの筋金入りの演説バカ。高校を卒業後、新人政治家の登竜門、上方政治家演説大賞の新人賞を最年少で受賞。同期のダウン=タウンゼンや、ウッチャー=サッチャーなどとラママの演説大会で腕を競い合った。
才能はそれだけでは収まらない。学生時代は毎週のように法律を考えてはホワイトハウスに投稿し続け、大統領たちを唸らせた。当時の定例会議ファンの間では知らない人はいない常連ハガキ職人であった。
今だに語り継がれる伝説のネタ『乳首がピンク色の黒人に一万円を支給する』という法律を考えたのは、まだ十七歳のころの大統領である。
その後、当時の大統領から「ホワイトハウスの作家にならないか?」とスカウトされるも、「私は政治家を目指していますので」と断った。
政治家になった後、東京(アメリカの)へ進出。売れっ子政治家の登竜門『語っていいとも!』の水曜レギュラーとなったのを皮切りに、会議のレギュラーを10本抱える売れっ子ぶりであった。
そして、満を辞して出場した『大統領選挙』で史上初の満票を獲得し初優勝を飾り、大統領となったのであった。
そんな絵に描いたようなエリート街道を歩んできた大統領が味わった人生最大の屈辱である。
「殺してやる……ナマハゲ」
大統領は狂気の目で呟いた。隅っこで体育座りをしていた秘書はその声にオシッコを漏らしてしまった。
しかし、大統領には問題があった。犯人がナマハゲのお面で顔を隠していたので、誰がナマハゲだったのかがわからないのだ。
──そうです、私が生のハゲです!──
その時、大統領の脳裏に市長渾身のギャグが過ぎる。
「殺す……ぶっ殺す」
色々、あって市長への殺意を覚える大統領であった。これで一安心である。殺せば済む。
で、乳首の写真だ。
大統領は衛星から撮った巨人の乳首。たった二日で左乳首まで進出していたハムは中央の胸毛で分断され、右半分以外はダンゴムシの餌にされてしまっていた。
「むっ!」
それ以上に驚いたのは衛星写真からでもわかる左乳首の発展であった。男しかいない右乳首が性の捌け口を求め彷徨っている間、わずか数日でめまぐるしいスピードで発展をしている。
左は発展、右はハッテンと大統領は心で思ったが、言わなかった。女がいないんだもん。
左乳首は花山さんとチチンコ族とダンゴムシ、この三種の神器を手に入れ、瞬く間にかつての右乳首市並みの文明を築き上げていたのだ。
「行かなくちゃ……」
大統領はおもむろに立ち上がった。花山さんが危ない。
大統領は忘れていなかった。あのブス核家族は、花山さんのことを嫌っている。きっと、いいように使われて、あとはポイだ。
助けなければ……
大統領は秘書を肩に担いで部屋を出て、殺さないといけない人ナンバーワンこと市長たちのいる会議室へ向かった。
女子高生病にかかっていた市長らは、大統領が秘書のケツを太鼓のように叩きながら入ってきても「授業、クソうぜえ」とスマホから目を離さない。
が、
「うがががががが」
大統領は部屋に入るや一直線にハゲ頭の女子高生へ向かう、首を締めた。
市長が苦しんでいる顔を見ると、大統領は笑みを漏らしながら、脳内に快楽物質が流れて、怒りが徐々に治っていく。
「ち、ちぬう!」
市長がそう言った瞬間、満足し大統領は首を締めた手を離し、正気に戻った。
「では、会議を始める」
お遊びはここまでだ。
死にかけたことで女子高生病から解放された市長らは大統領とこれからのことを考えることにした。
「どうしましょう!」
市長は聞いた。
「花山を助ける。それだけだ」
シンプル。
「我々にはOH! HANAYAMAがある。それに乗って左乳首市に乗り込み、一気に花山を奪取だ!」
大統領のシンプルすぎる、取れたての魚を醤油だけで食う漁師の朝食のような発想に市長らは拍手を送った。
幸い、右乳首には大量の金がある。その額『869慨ドル』
これを使いOH! HANAYAMAに最強の装備を整え、百機を左乳首市へ向けて兵隊を飛ばした。
が、
どかーん!
なんと胸毛の上空に差し掛かったあたりで、百機全てが撃ち落とされてしまったのであった。
「何があった!」
幸い、生還した兵士に話を聞く。
「ち、チチンコ族が……強化されて上空を飛び回っています」
なにっ!
その報告に大統領、市長たちは驚いた。改造チチンコ族だと。
そう、左乳首市は右乳首市が攻めてくるのを想定し、チチンコ族を改造し、胸毛上空に配備していたのだ。
「どれぐらい強いんだ?」
大統領が兵士に聞いた。
「七面のボスくらい強いです」
七面のボスだと。
六面のボスよりも強く、八面よりは弱いくらいかと思いきや、兵士は大統領たちを絶望に落とす発言をした。
「しかも、八面がそれまでに倒したボスが復活するタイプのステージだった時の七面のボスです」
そう言って、兵士は意識を失った。
てことは最強じゃねえか! ラスボスよりもちょっと弱いくらいの改造チチンコ族は上空をウヨウヨしていやがるのか!
それを聞いて市長は「帰りたい」と思ったが、生憎そこは地元だった。
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