第16話 久々の会議

 アメリカが壊滅した。その報は、世界中に一瞬で広がった。もちろん、右乳首市に滞在していた花山さんにも届けられた。


「あ、そう」


 そう言って花山さんは仕事へ戻って行った。暇なので、滞在の間、ここでも病院で暇つぶしに働いている花山さんでした。暇つぶしで命を救ってしまう女。


 たった一つの国を壊滅にまで追い込んで「あ、そう」の一言。どこまでも底が知れぬ女であった。


『日本はとんでもない兵器を開発していた!』


 アメリカを潰すのに核兵器など必要なかった。お父さんとお母さんと布団が一枚あればいい。

 これによって中東あたりで布団が飛ぶように売れた。テレビショッピングの電話に訳のわからない国の言葉が殺到したもんだ。

「俺たちも布団を買って、アメリカを滅ぼそう」とテロリストたちが第二第三の花山さんを作るべく奮闘した。


 しかし、残念なことにもう、アメリカは存在しないのだ。それを知ったテロリストたちは、髭を剃った。「いつか、アメリカを言わした時に剃ろう」と決めて、テロリストたちはみんなお髭を蓄えていたのだ。

 憎さ余って、犯行声明の最後に「でも、大好き」なんて書いちゃったヤツもいたが、ラブレターを破ってゴミ箱に捨てたという。


 アメリカは、もう、いないのだ。


「で、続きは誰が胸毛を剃るんですか?」


 葬式で空気を読まない、その一言に久しぶりに世界中の働き蟻たちが会議室に集まった。


「お前、やれよ」

「いや、お前たちがやれ」


 無責任な世界の政治家たち。アメリカの悲劇を目の当たりにしたことで、現場は責任のなすりつけ合いになっていた。

 すでにテロリストの間では、罰ゲームで負けた奴が、テロしたくもない国に「体育館裏に来い」と犯行声明を送る暇つぶしが流行っていた。


 そっから「じゃあ、戦争しちゃう?」というノリで始まっちゃう戦争もちらほら。


 早く、第二のアメリカっぽい国を吊るし上げないと、世界中が火の海だ。


「誰か、花山さんに毛は剃らないでいいよと言ってこいよ」

「そもそも、日本のただの看護師だろ? 日本が跡を継げばいい」


 白羽の矢が立ったのは、我らが日本。二代目アメリカを名乗る権利を与えられた日本。時期尚早という声もございますが、すぐさま、花山さんがバイトをしている病院を訪ねた。


「じゃあ、私は辞めます」


 と、花山さん。


「彼女がやらないなら、私も辞めます」


 と、一緒に看護師のバイトをしている財前教授。ナース服も板についてきた。可愛くはないけど、男にしては似合っている方だろう。


 そして、


「彼女がやらんというなら、我々も降ろさせてもらうぞ」


 と、なぜか「行け」と命令したはずの国々まで、降りると言い出す始末。元々、一部の国を除けば、どの国もアメリカ同様、花山さんの肝っ玉にみんなメロメロなのであった。

 「お前は何を考えているんだ」となぜか命令された日本は怒られてしまった。


 すでに、世界は花山という女帝を中心に回っていることを認めざる得なかった。胸毛一つで世界の女王まで上り詰めたのだ。


 これだから、胸毛と政治は面白い。


 その後の会議でも「お前やれ」「いや、お前だ」と次の爆撃係の押し付け合いは平行線をたどり、結局、何も決まらないまま会議は終わった。


 一方その頃、右乳首市役所では。


 アメリカの壊滅を聞いた市長は頭を抱えていた。当然である、この街はあくまでアメリカ乳軍の滞在地として生まれた街なのだ。

 そのパトロンのアメリカがなくなってしまっては、財源がもはや無いということだ。


 落語『品川心中』で例えれば、着る着物がなくて自殺を考えた花魁みたいなな感じである。

 

 もう死ぬしかない。


 市長が「どの国を巻き込んで死んでやろうか」なんて考えていると


「市長、防犯カメラに変な男が映って、死んでいます!」


 と、警備員が市長を呼びにきた。映像を見たら、稽古帰りの自家発電が汗を吹き出して帰ってきただけであった。

 自家発電が死ぬのは、もはや日課のようなもので、今更市長は驚かなかった。


「これぐらいスポーツライクに死ねたら、どれだけ楽だろうか」


 と、画面の向こうで死んでいる自家発電を市長は羨望の目で見た。生き返った。


 その後、野原君から、右乳首の南で見つかったダンゴムシが、自家発電の乳裏にいたお乳裏ダンゴムシと同じであると発表された。


「しかし、ここまで巨大なダンゴムシは初めて見ましたよ」


 と、野原君が撮影して来た映像を見る。


 人間の数十倍はあるであろうお乳裏ダンゴムシの群れ、よく見ると人と同じ大きさのものまで、大小様々な大きさのダンゴムシがいた。


「まるで、ナウシカのアレの群れのようだ」


 と、映像を見ていた誰もが思ったが、誰も口にはしなかった。みんな、アレの名前がわからなかった。


「おそらく、巨人が病気になる前から住んでいたのでしょう」


 文献によると巨人は太古の昔に、相撲の発祥になった格闘技をやっていたという記録があったそうだ。


「その時にお乳の裏に入ったのでしょう」


 と、野原君は分析した。


 が、市長には今、そんな事どうでも良かった。


 もはや、巨人の手術どころではないのだ。市長は財布の中をチラッと見た、830円しかない。

 今朝、ATMで降ろすつもりだったが、アメリカから送金されてなくて、もうこれだけで生きていかねばならない。


 その晩、どうやって金を作るか市長は一人で居酒屋で考えた。料金がちょうど830円だった。


 全部使っちゃった。


















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