第18話 大地の怒りと絵描き歌

 オッペンハイマー君と対峙した市長は、まさかの苦戦を強いられていた。


「なんだ、お前は? 俺は市長を呼べと言ったのだ」

「いや、私が市長ですが」

「噓を吐け! 市長は元軍の大佐だと聞いているぞ」


 オッペンハイマー君は、市長の頭を見て言った。


「そんなバーコードヘアの大佐がいるわけないだろ」


 そう市長の髪の毛を見て、オッペンハイマー君は、こいつは市長ではないと判断したのだ。


 市長は元大佐。大佐なんてくらいの人が、そんなバーコードヘアで戦場に出ていたら、敵の国が笑って試合にならないではないか。

 戦争とはいえ、最低限のルールはある。大佐がバーコード頭なんて、明らかにルール違反だ。


『戦場にバーコード頭はいないの法則』より、こいつは市長ではない。


 簡単な数学である。


 QED。


 さすが天才。数学の才能は衰えていないようだ。


「いや、でも市長なんですけど」

「お前が市長でも、数学は絶対だ。数学で市長ではないと言っている以上、お前が市長でも市長ではないのだ」


 と、市長は相手にされず、追い返されてしまった。


「ダメだった」


 すっかり落ち込んだ市長は、市役所で弱々しくそう言って、隅っこに腰掛けてしまった。


「市長を出せ!」


 市長を追い返して、オッペンハイマー君はまだ言っていた。


 市長は落第だった。


 全ての自信を失った市長は、壁に顔を向けて体育座りをしている。


 なんとか市長を元気付けて、もう一回行ってもらうしかない。


「市長」


 役員達が市長に歩み寄った。そして、誕生日には少し早いが、市長のために作った誕生日プレゼント受け取ってもらうことにした。


「我々で一生懸命に作りました。前々から市長が欲しがっていたものです」


「お前達……」


 部下達のプレゼントに市長は、涙を流して喜んだ。


 それは、部下達が作った『市長の絵描き歌』であった。楽しそうに部下達が歌いながら、近くにあったホワイトボードに、あら不思議、市長の顔が浮かび上がっていく。


「俺もそろそろ絵描き歌が欲しいなぁ」と何気なく呟いていたのを部下が覚えていてくれたのだ。


 市長は泣いた。今度は嬉しくて。そして涙で目を赤くした市長もみんなと一緒に、歌いながらホワイトボードに自分の顔を描いた。


「あっという間に、市長だよ〜」


 念願の絵描き歌を手に入れ、いよいよみんなの人気者だ。

 

 夢中で百個くらい描いたところで、飽きてきたので仕事に戻ることにした。


「さて、冗談はこのくらいにして」


 絵描き歌に飽きた市長が仕切り直した。「おい、私語は慎め!」と、まだ歌を口ずさんでいた部下に叱咤する。オンオフを大事にしろ!


「で、どうすれば、市長だって信じてもらえるかな?」

「その絵描き歌見せればいいんじゃないですか?」


 そうか!


 この絵描き歌はまだ現役で戦場に出ていた凛々しい市長をモデルにしていた。髪もフサフサだ。


「じゃあ、もう一回行ってくる!」


 市長はスケッチブックとペンを片手にオッペンハイマー君の元へ戻った。


「あっという間に、市長だよ〜」


 と、オッペンハイマー君に今の絵描き歌を見せた。


「まぁ、絵描き歌がそうなら、お前が大佐だったようだな」


『絵描き歌は本人に似てるの法則』のおかげで市長と大佐を繋げる方程式は完成した。


「で、何を怒っているんですか?」


 市長が三度仕切り直した。仕切り直し上手。


「お前たちがここに街を作ったせいで、このダンゴムシ達の食料だったパイ毛が生えなくなってしまったのだ。


「なんだって!」


 そう、右乳首市が立っているところは、ダンゴムシ達のパイ毛を食べる食事処であったのだ。

 そこに生えていた数本のパイ毛は、ここに街を作るときに整地するために抜いてしまっていた。

 パイと言えば聞こえは良いが、所詮は毛。

 今、ダンゴムシ達は食料がなくて困っているのであった。


「それは悪いことをした、しかし、我々にも事情がある。巨人を手術しなければならないので、ここの拠点をどかせない」


「だが、それではダンゴムシと我らチチンコ族が全滅してしまう」


 市長は考えた。この辺の毛といえば、


「ならば、我々が胸毛まで案内するルートを作ろう。それで、どうだ?」


「悪い案ではない。が、私は納得しても、このダンゴムシが納得をしない」


「どういうことだ?」


「このダンゴムシは、この街の住人によって子供のダンゴムシを誘拐されてしまったのだ」


 もしや、野原君が! あの野郎! 何してくれとんねん!


「ダンゴムシ達は、お前らと話すつもりはない。明日、またくる。それまでに立退く準備をしておけ。さもないと、我々、チチンコ族がまた爆撃をするぞ」


 市長は天を見上げた、先ほど爆撃をしたお婆ちゃん達が彼を威嚇するように空中をグルグルと散開している。


 どういう原理で飛んでんのか、市長には皆目見当がつかなかった。


 これも天才の力か。


 オッペンハイマー君達は、帰っていった。


 あと一日。


 金はない。住む場所もない。このままでは、巨人の体の上で野垂れ死である。


 なんとかしなければ。


「とりあえず、野原君を殴ろう」


 そう決めて、市長は市役所に戻って行った。


 

































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