第15話 冬のリヴィエラ
アメリカの胸毛爆撃作戦が開始されて半年が経過した。未だに巨人の手術をする方法は見つかっていない。
それでも体毛が濃い巨人の胸毛を爆撃するため、『OH! HANAYAMA』は毎日の日課の髭剃りのごとく、カタパルトを飛び立ち、胸毛に爆弾を投下していた。
その間も呑気に手術の方法を考えているが、全く見通しは立たない。
だが、花山さんが『KEWOSORE!』と言った以上、剃らなければならない。どんだけ、爆撃しても、翌日には生えてくるギャランドゥ。
爆撃するのは手術が決まってからでもいいのでは? と提言するものもいた。
しかし、その瞬間。
バゴン!
その提言者はホワイトハウスの大統領の部屋の壁に血の染みを作ることとなった。
「もう、一回言ってみろ! このウスノロ!」
目が血走り、すでに正気を失っている大統領。胸毛に花が咲いていて、胴上げされたあのラッキースケベの時の輝きはもはや1ルクスも残っていない。
「しかし! これ以上、爆撃をしたら、予算が!」
そう、毎日使われる大量の爆撃。その量は、一日に一つの戦争一回分だと言われていた。
もし、アメリカが明日、ギャランドゥを爆撃したら、アメリカの所持金は260円になってしまうのだ。
たった260円で2億人以上いるアメリカ国民をやりくりしないといけないのだ。
しかし、その絶望的状況でもアメリカ大統領は頼もしかった。
「それがどうした!」
この地獄に中指を立てる一言に世の女たちは痺れた。
それまで長蛇の列を作っていた有名占い師の順番待ちは、蜘蛛の子を散らすようにちり。テレフォン人生相談の主演予定だった人々は電話線を噛みちぎり、市役所のカウンセラーの相談していた女は「あんたなんか、お呼びじゃないのよ!」とカウンセラーにビンタを喰らわし、少しぬるいお湯で気分を落ち着かせていた女どももこの世から消えた。
そして、冬に旦那が凍えないようにセーターを編み出したのだ。
『女とは セーター編むのが 上手かな』
それがどうした! は、世界の女の希望の言葉であった。
しかし、それとこれとは話が別だ。
翌日、一人の男がアメリカ空軍基地に現れた。奴の名は大統領、『それがどうした!』の生みの親である。
一人の大統領と対峙する、アメリカ国民の腕自慢一億人。
「こいつを止めろ」
260円でどうやって国を運営するんだ。大統領は小学校から使っているアメリカの全財産が入った小銭入れを天高く投げ捨てた。
それが開戦の合図だった。
次々と大統領に襲いかかる男たちを掻い潜っていく! 花山さんのために。タックルも交わす。後ろから掴まれたら、そのまま引きずって前へ進む。
まるで、スーパーボールの決勝のタッチダウンを取るかのごとく、大統領は止まらない。
「うおおおおおおおおおおおおおお!」
脳内に『炎のランナー』のBGMを流しながら、アメリカの王は一直線に『OH! HANAYAMA』に向かって突進していく。
「大統領! 止まってください!」
「黙れ!」
そして最後の一人も、あえなく大統領に弾き飛ばされた。
OH! HANAYAMAに乗り込んでいく大統領を秘書は泣きながら眺めていた。こんなに止めても、あんたは行ってしまうのね。
でも、なんでなの?
なんで、あんたを嫌いになれないの?
あんたは本当に罪な男、惚れさせたまま行っちまう。
秘書は『冬のリヴィエラ』を頭の中で流しながら、ハンカチを噛んだ。
そして、カタパルトから加速し、OH! HANAYAMAは空の彼方に消えて行った。
コクピットの大統領は、ダッシュボードに何かが入っているのに気付いた。
「あいつ」
開けると中には、大統領が大好きな大量の魚肉ソーセージが転がり落ちた。
アイツは俺には過ぎた秘書だ。と、大統領はこのとき思った。
アメリカの残り所持金260円。それを秘書は帰りに毛糸に変えてしまった。大統領に編むセーターのための。
所持金はついに0円に。アメリカは事実上、この日、壊滅し、世界は混沌へと向かって進み出した。
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