第14話 お出迎え

 右乳首空港にやってきた、昆虫博士の野原君と自家発電の二人。まず力士の自家発電は太っているので、大変な汗かきであった。


 常時、お花に水をやるジョウロくらいの水が全身の毛穴から吹き出ている。それが横綱である。


 気温が暑くなると、さらにこれが滝のような汗にまで成長する。

 実際にナイアガラの滝のような勢いと音で汗を吹き出し、自家発電関の姿が水で見えなくなったこともあるそうだ。

 しかし、その時に発せられた自家発電関の滝の音のヒーリング効果で、自家発電関の近所の人々の心は穏やかになったという。


「これがその時の写真です」


 秘書から事前に見せられた汗だるまの自家発電は、確かに汗が滝となっていて、汗で本人の姿が隠れてしまっていた。

 例えるなら、警察のドキュメンタリー番組などで、犯人の顔にかかっているモザイクが、滝のような汗になっている感じである。


 しかし、それよりも重大な事が一つ。


 写真の水の向こうの自家発電関の顔は白目をむいているように見えた。この写真、どう見ても、自家発電関は死んでいる。


「どうも、この力士は頻繁に死んでいるようです」

「なら、死んでも問題ないな」


 秘書からそれを聞いて、ちょっとホッとする市長であった。責任という荷物が少し軽くなったのだ。

 殺してもいいという余裕の中で、改めて写真を眺めた。


 真ん中の力士はたしかに死んでる。けど……


「いい写真ではないか」


 自家発電関の周りの親方や女将さんは、横綱の滝の汗の音のヒーリング効果で本当に、本当にいい顔をしている。


 思わず、市長までもがホッコリしてしまったではないか。



 巨人の上は暑い。もともと砂漠のど真ん中に寝ているのだから、当たり前であるが暑い。

 もちろん、厳重な体制で自家発電は日本から巨人の体に運ばれた。

 まず日本から、人参をぶら下げられた馬のように、髷から釣り糸で岩塩をぶら下げて、定期的にペロペロしながら歩いてくる自家発電関。汗のよる塩分不足を補うためである。


 なぜなら、汗をかくと死ぬのだから。


 彼の死ぬは、遊びじゃない。「私、ボサノバを聞かないと死んじゃうの」とかほざいて、夜になると陽気に踊り出すカリブ系の女の軽いノリの「死ぬ」とはワケが違うのだ。


 殺すのが問題なのではない。殺す前の誠意が問題なのだ。


「どうも、右乳首市長です」


 市長が空港のゲートを抜けてきた、野原君と自家発電関に握手を求めた。挨拶もソコソコに自家発電関がさっそくゴネだした。


「稽古がしたいでごわす」


 自家発電関のもう一つの顔。それは人一倍の努力家という一面である。とにかく稽古、稽古、稽古! 稽古の鬼と言われている男だ。


「ご安心ください、自家発電様。ここならいつでも稽古ができます」


 市長は追いかけて言う。


「どう言うことでごわす!」

「ここは乳首の上です。と、言うことは、この右乳首市自体が一つの土俵なのです!」

「ど、どすこい!」


 市長と自家発電関はガッチリ握手を交わした。余念のない男、市長。


 ていっ! ていっ!


 自家発電関は、日陰に入って日課の稽古を人形と始めた。練習の鬼。この日々の努力の積み重ねは我々も見習いたいものである。


 その後、野原君は用意した車で、自家発電関は、押し出しで移動した。さすが横綱の押し出し、街を走る公用車を後を横から追い抜いて行ってしまった。


「あれ、乳首の外まで行っちゃうんじゃないですか?」


 土俵の外まで行きたい習性に気付いた秘書の発言で、自家発電関は一回、右乳首の外まで出て行ってしまったが、なんとか市役所にたどり着いたのだった。


 よかった。


 













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