女子高生病の恐怖

 会議は中止になった。

 市長と大統領となまはげは急いで包丁片手に右乳首市に帰った。戻った町の変わり果てた姿に市長らは絶望した。


「くっせ!」


 女が全員いなくなったことで、あのなんか若い女の原因不明のいい匂いがなくなり、右乳首市はすでに男子更衣室のような野蛮な匂いを醸し出していた。壁のあちこちには「うんこ」と落書きがしてあり、辺りからは残った男の市民たちの下ネタが飛び交う。


 あんなに楽しかったのに、合コンを男同士でやるとなぜつまらないのかを具現化したような地獄絵図。残った男たちのほぼ半分が尻を出し、尻を振り、各々がオリジナルの尻尻音頭を踊っているという有様だった。

 女という男が社会のモラルを守る唯一の理由が無くなったこと、みんな、タカが外れてしまったのだ。


 タカが外れた列車はどこへ行くか? 当然、下ネタ駅にしか止まらない。リニアモーターカーもびっくりの猛スピードで下ネタに降り立った男たち。


 千人の男が円になり「千人一斉に屁をこいたら竜巻は起きるのか?」というクソどうでもいい実験を始める馬鹿な奴ら。しかも、屁を出すのにこのご時世にサツマイモを食べるというアナログぶりだから、呆れるしかない。


 できた。




「大統領! これは!」

「大変だ、女がいなくなったことで、街のモラルというものが消えてしまったのだ!」


 その後、市長は大統領から手渡された、男社会の構造について書かれた著書『受精は世界最古のビーチフラッグ』を読み、この男子高校状態になった理屈を頭に刻んだ。


 すぐに市役所に戻り、大統領の右腕、セーター編む夫からあらましを聞いた。


 まず、チチンコ族の酋長は市長に馬鹿にされたことに腹を立て、その夜、バーで出会った行きずりの男と一夜を共にした。そして、熱いシャワーを浴びながらふと我に帰ると、思った。


「こんなことをするために右乳首に出てきたんだっけ?」


 右乳首に出てきてからの慌ただしい毎日に、いつの間には自分の夢を言葉にすることもなくなっていた酋長。シャワーを浴び、濡れた体を垂れた乳で拭いていると大人になった自分が鏡に映る。


 もう106。

 気付いたら彼氏も83歳の時に別れて以来、できてない。


 で、そのことを翌日、花山さんに相談した。


「ひどい……」


 花山さんは市長が言った酋長への心無い言葉の数々に絶句した。

 酋長が悲劇のヒロインぶりを脚色するために『垂れたババァの乳は、クソガキの鼻水よりタチが悪い』とか。本当は言ってない事までも言った事にしていたが、それでも花山さんには酋長が傷ついたというニュアンスは伝わった。で、酋長は昨日、一晩中、行きずりの男と桃鉄をしたそうだ。


「許せない! 女を何だと思っているの!」


 花山さんが柄にもなく、飲んだビールのグラスでテーブルを叩きながら言った。


「本当よ! 男なんて、女を性の捌け口ぐらいにしか思ってないのよ!」


 ワンピースも板についてきた財前教授が花山さんに同調した。女装の魅了に取り憑かれ、最近ではワンレンに手を出しているという向上心であった。


 酋長は理解のある二人の前でホッとしたことで涙を流した。


「きっと、あの市長は、私たち、チチンコ族の建築技術とダンゴムシと体が目当てなのよ」


 酋長の言葉に、花山さんと財前教授は口を揃えて「サイッテー!」と市長への怒りを露わにした。

 そして、


「ねぇ、出て行こうよ。こんな街」

「えっ」


 花山さんが言った。


「だって、乳首って一つじゃないじゃん? 夢も別に一つじゃなくていいんじゃない?」

「花山……」


 財前教授が「でも奈美悦子は……」と言ったが、二人は聞いていなかった。


 そして三人は翌日、ダンゴムシに乗って、この街を後にした。ちょうど、なまはげとハブが戦っている最中の出来事である。


 そして、「花山さんがいないなら、私たちも!」と、今や世界のカリスマ、「この世に正解などない。あるのは不正解と花山だけだ」とまで言われる花山さんが右乳首を去ったことで、右乳首市にいた女、チチンコ族は一斉に三人の後を追った。


 という事で女たちは胸毛を超え、左乳首市へと言ってしまった。もちろん、もともと、チチンコ族の乗り物であるダンゴムシ達も、胸毛を食べで左乳首の方へと行ってしまった。


「なんという事だ」


 大統領は頭を抱えた。


 翌日。

 男しかいなくなった右乳首市の市役所の会議室で、今後のことが話し合われる事となった。

 オッペンハイマー君が天才の頭を使って、いなくなった女の数と残ったこの町の男の数を数えてくれていたのだ。置いてかれた男。


「マジ卍」


 しかし、市長らは昨日聞かされた事実にショックのあまり女子高生病にかかってしまい、オッペンハイマー君が話している間もずっとスマホを弄っているという始末であった。


「彼氏のライン、マジウザい」


 市長がダルそうに言う。


「市長の彼氏って年上?」

「大学生」


 市長は「二十歳の癖に言う事がマジガキ」と文句を言いながらラインを返信する。それでも市長は彼氏のことがなんだかんだで好きであった。ハゲ頭JK。


「僕が数えた結果、現在、この街に残っている人口は1億1111万1112人だと解りました」


 昨日まで3億人くらいいたのに、半分以下になってしまった。

 そして、その数字を聞いて市長も他の役員もみんなおんなじ事を思った。


「人口、ゾロ目のがカッコ良くないっすか?」


 そのノリで市長達はそこにいたオッペンハイマー君を街の外に追い出してしまった。


 そして、無能だけが残った。


 市長は彼氏からの既読がつかない。

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