第8話 外交の真髄(前編)
「どこか、アメリカと同盟を結んでくれる国はないか?」
アメリカは世界地図と睨めっこしていた。アフリカの国境がまっすぐ過ぎて笑ってしまった。完敗である。
「どこかないのか、ダンディーに勝てる男の中の男の国は」
「それをダンディーって言うんじゃないですか?」
大統領の秘書がなかなか気の利いたことを言ってきた。「お、うまい!」と大統領も感心した。しかし、残念ながらアメリカに座布団を一枚渡す文化はなかった。笑点のことを永遠に知ることのない男たちの国選びは続く。
「どこかないか?」
と、探す大統領に秘書が指差した。
「イギリスはどうですか?」
ほぅ。
アメリカは唸った。ジェントルマンの国か。確かに紳士に胸毛はおマイナスだわ。
「よし! イギリスにしよう」
早速大統領はイギリスの大統領に『明日、遊ぼ』と連絡を入れた。
ドキドキ。
その十分後。
イギリスから『おう』と言う返事が来た。まずまずの出だしである。
この外交、ミスをするわけにはいかない。ホワイトハウスには監視カメラが仕掛けられ、大統領にイギリスとの国交のためのアドバイスを送る準備が進められた。
「何としても胸毛を剃るんだ!」と言う、アメリカの意地が見えた。
世界の王、アメリカ。そこには先代の偉人たちから伝えられている外交の秘訣が存在していたのであった。
それがあれば、どんな国とも結束を固められると言うものだ。
翌日。
ピンポーン。
イギリスは約束の時間より、少し遅くホワイトハウスにやって来たが、アメリカは笑顔でイギリスを迎え入れた。
「いらっしゃい」
ちょっとくらい遅れても怒っちゃダメ。と言うのは、先人からの教えであった。
アメリカはちゃんとそれを守ってイギリスを迎えたのであった。
が、アメリカが良かったのはここまでだった。
自分の部屋に案内するや、アメリカはプレステ4の電源を入れた。別に、ここまでは世界の外交でもよく見る風景だ。
しかし、アメリカは1PのやりかけだったRPGをやりだしてしまったのである。
モニターでその様子を眺めていたアメリカのトップたちは「おいい!」と頭を抱えた。
案の定、アメリカだけが楽しそうにゲームを始め、イギリスは全然興味なさそうに相槌を打って画面を眺めていた。
「FUCK!」と裏でモニターを眺めていたSPがインカムを投げ捨てた。
このままでは、イギリスとの国交断絶にまでつながる恐れのある失態だ。なんとか軌道修正をしなければいけない。
イギリスがトイレに立った瞬間、部屋にある電話をかける秘書。
「もしもし」
「あんた、政治ナメてんのか!」
鼻くそをほじりながら電話に出た大統領に、秘書からの強烈な罵声だった。イギリスはオシッコな為、すぐにトイレを出て来た。
まずい!
秘書はとりあえず、「マリオカートやれ!」と命令して電話を切った。
モニターの大統領はゲームをマリオカートに切り替えだした。
よし!
アメリカのトップたちはその姿を見てガッツポーズを見せた。マリオカートなら二人で楽しく盛り上がれる。
これも、先人が残した叡智である。ありがとう、もう死んだ人たち。
イギリスがトイレから部屋に戻って来た。
が、
「バカああああああああ!」
モニタールームから再び悲鳴。
なんと、画面の中のバカは、マリオカートだと言うのに、イギリスを混ぜないで一人プレイで遊びだしたのであった。
「誰だ! こんな男に投票したバカは!」
さっきのSPは信じられないと言う顔で頭を抱えてしまった。入れたのはお前だ。
イギリスは再び、つまんなそうにアメリカがやるマリオカートをボーッと見ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます