第9話 外交の真髄(後編)
流れを変えなければ!
ここで秘書は、大統領のお母さんを部屋に投入することにした。
お母さんは、お菓子とジュースを持って部屋に入っていく。イギリスは美味しそうにお菓子を食べ始めた。
「ちょっと、大ちゃん。イギリス君が遊びに来てるんだから、一緒にやんなさいよ」
大ちゃんとは大統領の呼び名である。お母さんだから、大ちゃんと呼んでいるのだ。大統領ママの特権である。
しかし、
「うるさいな! 出てけよ!」
人生の八割を反抗期として過ごしている大統領は、この母親からのナイスな提言を呆気なく振り切った。
終わった。
モニタールームの者たちはもはや、何も言わなくなった。
「これは、下手するとイギリスと戦争もありえるぞ」
誰も口には出さなかったが、みんな、心でそれを確信していた。こんな酷い歓迎があるか。
自分の国に呼んでおいて、ゲーム独り占めって……
しかし、
「イギリスが動きました!」
落ち込んだアメリカのトップたちが、一斉に画面に注目した。
なんと、イギリスはあまりにも暇を拗らせて、アメリカの本棚を漁りだしたのだ。
そして、
「おい! ミラクルだぜ!」
なんと、その本棚にあった漫画『ドカベン』を手にとって、夢中で読みだしたのだ。
ヒャッハー!
モニタールームは歓声で沸いた。なぜなら、大統領のホワイトハウスの本棚にはドカベンが全巻揃っているからだ。
『ドカベンは全巻揃えておけ』
これも、アメリカの先人が子孫たちに残した外交の掟であった。長い漫画に食いついたら、結構、間が持つ。という教えだ。
「あ、お菓子、触った手で漫画読まないで」
マリカーを一人でやるバカの一言に「テメェは黙ってろイモムシ野郎!」とSPの巨漢がついにモニターへ怒鳴り散らした。無能がっ!
その日、イギリスはドカベンを10巻くらいしか読まずに滞在しているホテルに帰っていった。
しかし、次の日もその次の日も、イギリス大統領はドカベンを読むためにホワイトハウスに通い詰めたのであった。
そんなこんなで、アメリカ大統領とイギリス大統領は、次第に心を打ち解けていった。
そんなある日、アメリカ大統領は、イギリス大統領にまた電話をした。
「ザリガニ、取りに行かない?」
イギリスからの返事は早かった。
「いいよ」
ヒュー!
歓声と拍手が、大統領室で沸き起こった。
先人が残した外交の叡智の一番最後にはこういう言葉がある。
『ザリガニに誘ってOKなら、もう友達だ』
アメリカとイギリスはこれによって、友好関係を強めることになった。楽しそうにホワイトハウスからザリガニを取りに出ていく、アメリカとイギリスの後ろ姿。
それもう、どこからどう見ても、友達だった。
しかし……
「あんな奴とは、絶交だ!」
アメリカ大統領は、その日、激昂して帰ってきた。どうもイギリスと喧嘩したらしい。
「あいつ、俺がザリガニをとったら、自分で捕まえたヤツを見せびらかして『俺のがでかい』って言いやがった! こんな、屈辱あるか!」
アメリカはそういって、虫取り網と虫かごを床に投げつけた。
「で、そのザリガニどうしたんですか?」
「あのクソ野郎のパンツの中に突っ込んでやったさ!」
その後、ザリガニのハサミがイギリス大統領のシンボルを斬ってしまい。イギリス大統領は、女の子になってしまいましたとさ。
「女になって、初めて見えるものがあった」
その翌日。
新聞の見出しにそう書かれ、イギリスが『男性ホルモンむんむん同盟』に加入したという記事が載っていた。
イギリス大統領は、化粧をすると綺麗になるタイプだと。そこに載っていた写真でわかった。
また、アメリカは一から作戦を考えるハメになってしまった。
馬鹿なやつである。
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