第11話 友達以上恋人未満は世界を救う
アメリカの裏切り行為。
それに激怒したブス核家族、そしてドイツ、イタリア、イギリス。
「なぜ、呼ばれたのかわかっておられるのでしょうか?」
お父さんが穏やかな口調でアメリカに問いただす。
「いえ、全く」
「とぼけるな!」
怒りに満ちたドイツが激昂する。すでに「胸毛支持派」を表明した国々ではダンディを守る会たちによる暴動が起きていた。
ガムテープを持った女どもは街中の男たちの胸毛にテープを貼り一気に剥がすという暴力行為を繰り返している。
そして、その胸毛はひじきとして、日本の我々の食卓に並んでしまっている始末なのだ。酸味がきつい。
地球の裏側で起こっていると、高を括っていたはずが、私たちの食卓にまで影響を及ぼしている。だから政治は面白い。
この胸毛問題は、日本ももはや他人事では済まないのだ。酸味がきつい。
「我々は前の会議で確認したはずです。胸毛は剃らない、剃るのはギャランドゥだけだと」
ここでお父さんがモニターに巨人の写真を写した。それはまだ、毛を爆撃される前のダンディーな巨人の写真であった。
「まぁ……」と思わず声を出したのは、女歴一ヶ月にも満たないイギリスであった。
「これが爆撃前の巨人です」
お父さんはそう言って、「これが爆撃後です」と体の毛のほとんどが無くなった巨人の写真をアメリカに見せた。
「胸にあったけまでが爆撃によって、消えてしまっています。これでもまだしらを切るつもりですか?」
お父さんの訴えに、アメリカはふっと笑った。
「何をおっしゃっているのかが解りません。我々はギャランドゥのみしか爆撃をしておりませんが」
「ふざけないで!」
お父さんが立ち上がった! 「お父さん!」とお母さんが体を抑えた。彼女たちの正式名称は「お父さんボス」「お母さんボス」「子ボス」である。それが鈍って「ブス」になった。
みんな、悪意はなく「ブス」だと思っているから、タチが悪い。
「私たちがあの胸毛にどれだけの思いを注いでいたか、わかっているんですか!」
お父さんは訴える。
彼女たちの言うことも尤もであった。
なぜなら、彼女たちの胸毛運動によって、胸毛を反らないことに興味を持った人々は、アマゾン奥地の焼畑農業を見て、「地球の胸毛が剃られているわ」と、アマゾンを再び緑の胸毛で満たそうと運動を始めていた。
彼女たちの運動は無駄ではなかったのだ。
だが、それと彼女たちが醸し出す、パートのおばちゃん感がどうも好きになれないのも、全く別の話なのである。
「ですから、私は胸毛は爆撃しておりません」
「いまさらっ!」
もう一度、爆撃前の巨人がモニターに映る。
「じゃあ、ここにあった胸毛はどこに言ったのよ! 説明してもらいましょうか!」
お父さんが声高に言った。
しかし、アメリカは笑った。
「では、お尋ねしますが、どこからどこまでが胸毛で、どこからがギャランドゥなのか、説明できますか?」
「えっ!」
アメリカの意外な一言にお父さんはもう一度モニターを見た。
巨人の胸毛とギャランドゥは繋がっており、T字の形の毛の模様ができていた。もちろん、「あの辺りが胸毛なのね」と大まかに訪ね、「そうだね、ハニー」と甘い会話をすることは可能だ。
しかし、どこまでが胸毛でどこからがギャランドゥなのかと聞かれたらどうだろう?
「私は胸毛は恋だと思っています」
「なんですって!」
アメリカの予想外の胸毛論に少女漫画家のお父さんはリモコンを落としてしまった。
「恋だってそうです。最初はただの「気になるアイツ」、それがいつのまにか「恋」に変わっていた。でも、それが変わる瞬間なんて誰にもわからない」
はっ!
その時、お父さんブスは、忘れていた大切な何かに気づいたという。「それが何かはわからないわ」ともブログに書いた。要はフィーリングであった。
「ギャランドゥと胸毛も、恋とおんなじなんです。だから私はギャランドゥな部分だけを爆撃したつもりです」
「でも! 全部、なくなっちゃってるじゃない!」
黙り込んだお父さんの代わりに、お母さんが訴える。
「確かに胸毛あったのよ! なのに全部消えちゃってるでしょ!」
「失ってから、初めて気付く恋だってあるんです!」
アメリカは泣いた。
「いや、むしろ……それが恋の宿命なのかもしれない」
「そうよ、お母さん」
少女漫画家、お父さんが続いた。
「胸毛はあるのよ。この失った私たちの悲しみ、これが胸毛なのよ」
そう言って、お父さんは胸毛の位置にコブシを置いた。
「この悲しみを忘れちゃいけないわ。この悲しみこそが胸毛。そして、いつか花を咲かせましょ」
「お父さん……」
失って初めて恋に気付く、そんなラブコメが描きたいけど描けないから、胸毛運動に精を出していたお父さんには一番、心に響いた。
『ラブコメの 一番いいやつ 持っていけ!』
お父さんは心の中で、川柳を詠んだ。
そう、これこそが友達以上恋人未満作戦であった。
胸毛は咲いている、私たちの心の中に。
「異議あり!」
え?
これで終わったと、アメリカが一息ついたその時、手をあげた男、いや元男がいた。
そう、アメリカと袂と分かった元男、イギリスであった。
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