第12話 愛
異議を唱えたイギリスが立ち上がった。
「失って初めて大切なものに気付く。私はそうは思いません」
「どういうことでしょうか?」
アメリカは平静を装った。なぜここでイギリスが?
その時、アメリカの脳裏にあの言葉がよぎった。しまった!
『イギリスからでもモロッコは見える』
そういう事だったのか!
イギリスは立ち上がった。
「私は、先日、このアメリカによって、股間にザリガニを入れられました。そして、大事な……いえ、もとい、今まで大事ではないのについていた、逸物をチョンぎられたのです」
「それがどうした!」
威嚇のため、アメリカの声が大きくなった。
「失ったものがすべて大切だというわけではないという事です!」
「言いがかりだ!」
「胸毛は恋じゃない!」
イギリスの放った言葉に、お父さんがハッとした。そうだ、胸毛は恋じゃなかった。
「そして、失ったからこそ、それの使い方がわかるというものです」
その後、イギリスによって、切り取られた逸物にタイヤをつけて、ラジコンにして遊んでいる映像が流された。
これを見ると、逸物は股間にある時よりも楽しそうに伸び伸びとサーキットを走り回っているように見えた。
終わった。
アメリカはその映像を見て「欲しい」と思ってしまった。しかし、そのラジコンは売っていない。でも、アメリカの懐にも確かにそのラジコンはあるのであった。
負けだ。
あの日、ザリガニの大きさに負けたことに腹を立てた己の敗北。偉大なる先人の教えに背いた、己への罰だ。
友達以上恋人未満作戦はここに敗れたのであった。
もうだめだ、これで、戦争だ。
アメリカは穏やかな目で、その会議室にいる各国の偉い人を眺めた。こいつら全員、皆殺した。
全然反省していなかった。
「見てっ!」
誰もがイギリスの意見に耳を傾けていた時、子ブスがモニターに映っていた巨人を指差した。
「花だ」
なんと、巨人の胸の焼け野原に一輪の花が咲いていた。
奇跡であった。
それは、巨人が海から砂漠に移された時表面についた花、その花は根を張り、毛の中の栄養ですごく大きく育っていたのであった。
爆撃に仲間は死んでいったが、一輪の花だけが残っていたのである。
思わずお父さんも笑ってしまった。
『笑ったり、泣いたり、怒ったり、いろんな花を咲かす君を見ていたい』
お父さんは、心の中で恋人を花に例えた。
『お花は全裸、だってお花は服を着ていないもの。私もお花よ』
お母さんは、全裸の自分とお花を自分に見立てた。
『トイレ行く 誰が言ったか お花摘み』
子ブスの連れション評論家は、一句詠んだ。
「花が咲けば笑顔になる。私は最初に申し上げたはずです」
日本がここぞとばかりに立ち上がった。
「日本……お前は……」
ドイツは、あの時のことを思い出した。花が咲く、これ以上の幸せは、ないのだ。
「そして、砂漠に移そうと最初に言ったのは、アメリカです」
と、いうことは……一同は一気にアメリカを見た。
「あの花はアメリカのおかげで咲いたのです」
このやろう!
日本の言葉で、その部屋にいた一同がアメリカを胴上げした。もう、胸毛なんかどうでもよくなっていた。
アメリカ万歳! アメリカ万歳! アメリカ万歳!
隠して、胸毛を守る会は解散し、同時に『あの花を守る会』が立ち上がった。
花山さんに聞いて見たら「花ならいいよ」と簡単に許可が出た。
右乳首と左乳首の国境に咲いた花。その花はやがて広がりお花畑になった。しかし、それはもっと先の話である。
そして、いよいよ花山さんと財前教授を乗せた飛行機が右乳首空港に降り立ったのであった。
胸毛編 完
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