幸せの白いあれ

 ブリーフ山の麓まで来たが、アメリカ人達はそれを見上げて絶句した。


「なんて大きさだ」


 世界一大きいアメリカよりも大きいものがこの世にあったとは……なんだこのブリーフ、誰が作ったんだ? そもそもメーカーはどこなんだ?

 先頭の大統領、以下は目の前に立ち塞がった巨大で真っ白なブリーフ。ブリーフなのかどうかすら分からない、デカすぎて。

 ブリーフに道などない。なぜならブリーフの中から出てくるものは人間の体から「出ていけ!」と言われたオシッコなどの排泄物。そんなヤツの為の花道などあるはずがない。

 勝手に出ていけ! むしろ裏口から出ていけ! と言う塩梅だ。


 ところで、ここにそのオシッコを追い出す場所を登ろうとする最高の馬鹿野郎達がいた。出ていく道がないのだ、入っていく道などもってのほかだ!

 こんな所に来て、どこに行く! ブリーフだぞ? 何を期待している? ブリーフだぞ? 汚れ以外、あるはずないだろ!


 帰れ!


 誰が言ったわけでもないが。その巨大なブリーフの真っ白を見たアメリカ人全員がその「帰れ!」の声を聞いたと言う。


 しかし、そんな檄に怯んでいては、世界最高の国は作れないのだ。


「道がないなら登るしかない」


 大統領は言った。


 大統領はかつてアメリカ大陸に上陸した偉大なる先人たちのことを思い出した。この記憶は大統領になった者だけが手に入れる事ができる絵日記に書いてあった先人たちの記憶だ。

 もちろん、この絵日記を大統領は今もつけている。この前、ビンゴで渡してしまったが予備をつけているから大丈夫。アメリカの偉大な歴史はこの様に伝えられているのだ。


 絵日記の中の先人たちは、アメリカ大陸に上陸した時の何にもないアメリカを見て、驚いたそうだ。

 そこに先人たちは自らの栄光と同時にアメリカに一本、一本、道を作って行ったのだ。


 道がないからと言って、踵を返すものはアメリカ人ではない。

 幸い、ブリーフは職人が丹精込めて縫ったものです。アスレチックのネットを上っていくように上に行ける。

 幸い、男しかいないから、下からのパンチラ目当ての視線の突き上げを気にすることもない。


「よし! アメリカ人全員でこのブリーフを登るぞぉ!」


 大統領の声に「おぉー!」という国民達の威勢の波がこだまする。


 しかし、ここまではお母さんの力を借りて辿り着いたが、ここから先はもうお母さんの力は通用しない。なぜなら、男の体で一番の男らしい場所をお母さんの力で登るというのは、お母さん、ブリーフの持ち主の方両名へ、大変失礼に当たるからである。

 お母さんは絶えずブリーフの布の向こう側のお父さんの宝物を見ているのだから。それは日本日本と言っている中、一人、海の向こうを見ていた坂本龍馬のように、そのおかげで我々子孫が繁栄していることを忘れてはならない。

 つまり、お母さんの力でブリーフの外を登るというのは、お母さんへの生殺し、冒涜でしかないのだ。坂本龍馬の船が海に出て戻ってきてしまったようなものだ。

 その事を熟知しているアメリカの男達は、もうお母さんの力は使わないぞ! と心に決めていたのだ。


 しかし、宇宙まであるこのブリーフを登っていくのは並大抵の事ではない。


「だが、我々アメリカ人は諦めない。道は前にだけ続く物ではない。上へ行く道もアメリカ人ならば作らなければいけない!」


 うおおお!

 NASA! NASA! NASA!

 アメリカ人らは再び声を上げた。

 気合十分。

 ここに恐れるものは誰もいない。

 なぜなら、アメリカにはNASAがついているからだ。







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