第20話 夢のドミノ

 奴らがくるまでにはまだ時間がある。

 市長は最後の手段として、街の奴らを市役所に集めた。もともと軍人の関係者が多い街なので、すぐに集まってきた。


「この瞬間だけは、俺は大佐に戻る」


 鬼の大佐が復活した。「俺を今からアリサちゃんと呼べ」と下の市民に命令を下す市長。バーコード頭の親父をそんな可愛い名前で呼ばせるなんて……鬼である。


「時間がないぞ! 急げ!」

「はい! アリサちゃん!」


 と、市長はさっきネットで調べた作戦の分担を市民に説明して行く。市民は急いで指定の箇所に走る。約一万人いると言われている右乳首市民、この一糸乱れぬ隊列は、さすが元軍人である。


「すいません市長」

「アリサちゃんだろうがぁぁ!」


 歯向かう市民に市長の怒りのグーパンが飛ぶ。


 そして、一時間後にオッペンハイマー軍がやってくるまでになんとか作戦は間に合った。

 やってきたオッペンハイマー君は、市長によって右乳首市の近くの丘『嗚呼、鳩胸ときたら』の近くにできた、オデキに案内された。


「ここから、ご覧ください」


 そこに椅子が一つ置かれ、オッペンハイマー君はそこに腰掛けさせられた。


「チチンコ族の皆様は、上を旋回していてください」


 市長の言われた通り、チチンコ族は空を飛んで、空中をぐるぐると回り出した。


 その後、「では、私は準備がありますので」と、市長は自分だけ街に戻ってしまった。


 一体、何があるというのだ。「謝罪を形にした」と言い残していたが。


 と、拡声器のスピーカー音が街から響いた。市長の声だ。


「えぇ、チチンコ族様、並びにダンゴムシ様にはこの度、多大なご迷惑をおかけ致しました。その謝罪の言葉を形にいたしましたので、ご覧ください」


 そこで拡声器の音は切れた。


 よく見ると、町中のいたるところに市民が一列に整列して立っているのが見えた。


 何が始まるのだ? とさすがのオッペンハイマー君も予想ができない。


「チチンコ族の皆様。申し訳ありませんでしたぁぁ!」


 と、市長の声がしたと同時に、市長がオッペンハイマー君に向かって頭を下げた。

 すると前に立っていた部下の背中に、市長の頭が当たった。それを合図に今度は部下がお辞儀をした。

 すると、部下の頭がまた目の前に立っていた市民の背中にあたり、市民が頭を下げる。


 これはドミノ倒しだ。 

 一列をなしていた市民たちが次々と頭を下げて行く。謝罪のドミノはみるみる速度を上げて、右乳首市を駆け巡る。


 オッペンハイマー君の位置からだと、ドミノの様子が一望できた。途中から、ドミノの流れが二手に分かれたり、土下座になった背中のシャツの色で「うんこ」という文字が浮かび上がってくるという演出も凝っていた。


「ほぅ」


 市民の誠意にオッペンハイマー君も思わず唸ってしまった。



「うおおおおおおおおおお!」


 一方その頃、街の中の市長たちは、最後の仕掛けドミノの方へと走っていた。市民の人数が足りなくて、結局、最初に倒れた役員たちが最後のドミノまで走って人数を賄わなければならなかったのだ。


「時間がない! 走れぇ!」


 市長の掛け声に「はい、市長!」と部下たちも息を上げながら、走る。「アリサちゃんだ、ばかやろう!」と走っている部下の横っ腹に市長の強烈な蹴りが入った。


 それでも、走れ!

 

 鬼であった。アリサちゃんと呼ばなかった己の未熟さを悔やめ!


 ドミノはどんどん進んで行く。街の中心の噴水まで時間がない。自家発電も、このドミノのために今、必死で死んでいるというのだ。間に合わせないといけないのだ!


 うおおおおおおおおお!


 そして、土下座の波が最後のアトラクションのカーブに入ってきた。


「急げっ! 急げっ!」


 市長は走ってきたものを所定の位置に付かせる。土下座がどんどんこっちへ来る。


「謝るか? 謝らないか?」みたいな演出も入れておけばよかったと後悔する市長であった。


 そして、市長は仕掛けの円の中心になんとか間に合った。


 すいません、すいません、すいません、すいません。土下座が円を描きながら渦になり、中心の市長のもとへやって来る。


 そして市長の本日二度目の謝罪、背中が三人の部下に同時にあたり、その三人の部下の頭は、倍の六人に、その六人はと次第に増えていき、巨大な女の裸の絵が浮かび上がって行く。


 これには、オッペンハイマー君も「おっ!」と種の保存の法則が発動するが、残念、股間は自家発電関の死体がモザイクになっていた見えませんでした。


「「「「「「「「「「「すみませんでした」」」」」」」」」」」」」」」


 最後に、街のみんなで謝って、謝罪のドミノは終わった。


 息を切らし、満面の笑顔で丘に戻ってきた市長。


「ど、どうでした?」


 市長の問いに、オッペンハイマー君は拍手という最大の賛辞で返した。


 しかし、


「攻撃ぃぃぃぃ!」


 ぎゃー! 


 すぐにお婆ちゃん達による爆撃が始まった。


「なんで、ですか!」と市長が詰め寄るが、


「それはそれ、これはこれ」


 それだけであった。


 無駄。


 


 
















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