第17話 恐怖のチチンコ族
時は市役所会議室。
右乳首市長の口から告げられた衝撃的事実。
「もう、お金がないのよ」
次の瞬間、街の人々は、一斉に市長を糾弾してかかった。
「この無能!」「すけべ!」「金の亡者!」「すけべ!」「すけべ!」「すけべ!」「役立たず!」「よしお!」「すけべ!」「すけべ!」
バン!
「俺は、よしおじゃねぇ!」
この心無い役員によしおと呼ばれ、さすがの市長もブチギレた。
そして、よしおと言った一番弱い役員の胸ぐらを掴んで、壁に追い込んでの殴り合いだ! それ、右だ! 左だ! キックだ! 乳首だ!
最後に、市長の必殺『男の乳ビンタ』という、自分をFカップだと思い込んだ体勢から繰り出される、市長の「ヌンァ!」という叫び声とともに、胸板が顔を掠めていくだけのクソのような技が決まった。胸に塗ってたムヒが顔にしみる。
意外な形でケリはついた。勝者、ムヒ。
「で、冗談はこのくらいにして」
市長は仕切り直した。「ネクタイが曲がっとるぞ」と、他の役員の気を引き締める市長。
「どうするんですか、市長!」
「どうもこうもない、私たちで金を稼いでこの街を発展させていくしかない」
「しかし、どうやって!」
「それを今から考えるのだ!」
そう、そこにいた役員も元軍人ばかり、街づくりなんぞは生まれてこのかたやった事もなければ、しようと思った事もない。
今のところ、この街にある唯一の収入源は、「乳首の弾力が膝に負担をかけない」という理由でマラソン選手が合宿の地として利用してくれているだけである。
一同のため息が出た。
もう、終わりだ。
もう、早くこの街を出て帰りたい。
そこにいる全ての人間がそう思った時、奇跡が起こった。
「市長!」
部屋に部下の一人が入ってくる。
「街の向こうから! 何か大群がやってきます!」
なに!
それを聞いた市長をはじめ、会議をしていた役員たちは屋上に走る。まるで、校庭に犬が入ってきたような騒ぎようだ。
「なんだ、あれは!」
屋上から街の南側を見ると、巨大なダンゴムシの大群が、こちらへやってくるではないか!
あれは、お乳裏ダンゴムシ!
すぐさま、避難勧告が街に出された。あれよあれよと、街の人が右往左往して、街中を走り回る。
その間にも、ダンゴムシの大群は街のすぐそばまで来てしまった。一番大きいもので、街一番のビルを飲み込むほどに大きなダンゴムシ。他にもそれに負けず劣らずのものから、軽自動車程度のものまで、大小様々だ。
うわああああああああああああああ!
「止まれ!」
何者かの声がした。途端、街にぶつかる直前でダンゴムシは一斉に止まった。
「勝った?」
市長が周りに尋ね、外を見る。しかし、街の外はダンゴムシに包囲されている。
「どう見ても、完敗っす」
と、部下の一人が市長に言った。
「勝った事にしよっか?」と、市長。
「え、できるんすか!」
「いや、どうせ死ぬから。記念に」
ダメだ、この市長。この街の希望はその瞬間に潰えた。
「右乳首市市長! 出てこい!」
さっきからそう言えば、人の事がするぞ。ダンゴムシって、喋るのか?
「あ! 市長! ダンゴムシの上に人がいます」
「なにっ!」
部下から双眼鏡を借りて見ると、確かに一番大きなダンゴムシの上に跨っている人間らしい男の姿。
「あれは、オッペンハイマー君では!」
「なんだ、お前、知り合いか?」
「数ヶ月前に左乳首市の頬ずり峠で消息を絶ったと言われていた、スウェーデンの天才数学者ですよ」
この男、オッペンハイマー君は、とある数学の問題を解こうと左乳首市を訪れた。しかし、彼のような家の中で数学を解いているだけの芋くさい男、ダンディ欲しさの女たちにはお呼びではなかった。
すぐに街の外へ放り出され、彼も放浪の身となり、頬ずり峠に身を寄せていた。が、ある日を酒井に行方不明になっていた。
なぜ、その男が、ダンゴムシの上に!
「もう一度言う、市長は速やかに出てこい。さもなければ、この街はダンゴムシの通り道とさせてもらう。我々、チチンコ族は、お前たち人間に大きく怒っている」
チチンコ族? 聞いたことないぞ。
「いいか、人間ども。これは、挨拶がわりだ」
と、その時、
「市長! 空です!」
「なんだあれは!」
と、市長が双眼鏡を向けると、それは爆弾のようなものを撒き散らす大勢のお婆ちゃん達だ!
「お婆ちゃんが空を飛んでるぞ!」
お婆ちゃんが投下した爆弾で、街が倒壊しだしたが、それどころではない。お婆ちゃんがロケットエンジンを背負うわけでもなく、空を飛んでいるのだから。
お婆ちゃんが空を飛んでたら、人の命なんか知ったことではない。これが人間の欲望の根源だ。
「市長はいないのか?」
外でオッペンハイマー君が呼んでいる。
他の役員に「早く行け」と背中を押されて、渋りながらもやっとこさ外に出た市長。
「ヒューヒュー」と呑気な住人達に冷やかされながら、オッペンハイマー君の元へ向かう市長。
「え? コクられるの?」
と、本気で思って、顔を赤らめる市長であった。
怒ってると言われたのをもう忘れている。
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