前座、タンスに苦戦する

 大統領がお花を踏み潰したことにより、予想通り左乳首市市長の「ブス核家族」の酋長、お父さんから挑戦状が届いた。

 覚悟はしていた大統領であった。レディス4に後悔はいらない。五時になったら去っていく。


 決戦の日。例の如く国際会議室は超満員。久しぶりのアメリカ大統領の会議が生で見れるのだ。さだまさしのトークを生で聴くために昔の落語家たちはライブに行って勉強していたように、「この会議で少しでも芸を盗んでやろう」と目論む、サラリーマンたちが会場に押しかけたのだ。

 そして、こいつらの会議に費やしている時間こそが、世に言う「時間の無駄」と言うものであった。

 要は、社会のゴミを生み出すのに芸を盗もうとしているヤツらの集まり。いいうんこをするために食物繊維を摂取しまくるアホと同じであった。


 決戦の会議の開始時間はすでに三十分も押していた。控え室で待っていた大統領と市長も流石に予定を大きく外れたスケジュールにイライラを隠せない。予定よりも早くアップを済ませてしまったため、少し体冷えてきていた。


 押した理由というのはシッカリしたものであった。

 前座で披露された『なまはげ VS ハブ』の一戦が予定よりも長引いてしまったのである。

 下馬評では、秋田の島崎和歌子こと、なまはげの優勢だと思われていたが、いざ蓋を開けてみると、ハブが予想以上に粘った。

 ピンチになった途端、リングの隅のタンスの奥に逃げ込んでしまったハブを仕留めるのになまはげは苦労した。

 タンスの後ろに転がっていった結婚指輪を取るように包丁を持つ手を奥に伸ばすが届かない。これがなまはげ苦戦の最大の要因であった。


「なんで、リングの上にタンスがあるんだ!」


 イライラした大統領が運営側に説明を求めると、今回の対決は『ありふれた幸せデスマッチ』と言う特別ルールが適用されていたので、タンスは必須であった。

 これでは大統領も怒るわけにも行かず、瞑想をして試合が終わるのを待つことにした。


 もともと、きりたんぽにしてハブを焼いて仕留める予定であったナマハゲは、包丁でハブを切り刻むことになった。前日にウォーミングアップで沖縄の国際通りで浮かれている旅行客を三匹ほど餌食にしていたハブであったので、血が予定以上に吹き出し、パスポートも一個出てきてしまう大騒ぎ。国際問題。


 試合後に掃除をすることになり、会議はさらに押した。嫌な予感が大統領と市長の間に流れ始めていた。


「お先に勉強させていただきました」


 と、試合を終えたナマハゲが大統領と市長の控え室に挨拶にやってきた。落語家の師匠連中のように、火鉢を囲んで渋い顔をして、「なっちゃいないねぇ」と小声で呟き、なまはげの勇姿を讃える大統領と市長であった。


 そして、ついに会議の時間がやってきた。


「青コーナー、左乳首市の核弾頭、ブスー核家族!」


 客席からの「ブース! ブース! ブース!」と言う応援と入場曲のパワーホールがこだまする中、キャッツアイのコスプレをしたお馴染みの三人が会議室に入ってきた。

「神は誰だ!」とお父さんが客席に投げかけると、一際大きい声で「ブース! ブース! ブース!」とこだまする。

 ここまでくれば、ブスももはや褒め言葉だ! 三人ともウォームアップのしすぎで、本物のプロレスラーよろしくの汗だくであった。


「赤コーナー 世界の王の両腕 右乳首市ぃ」


 今度は客席から「ハーゲ! ハーゲ! ハーゲ!」のコールと共に欅坂46の『二人セゾン』と共に市長と大統領がセーラー服姿で入場してきた。桜の花びらが降り注ぐなか、二人のハゲは手を繋ぎながら入場してくる。

 この演出を見てしまえば、すでにハゲは恋の必須アイテムであった。


毛の無い頭を見上げて 満開の日を思ったことがあったか?


 両者が会議室の中央に設けられた、朝まで生テレビみたいな丸い机に向かい合って座った。

 両者睨み合っているが、どう考えたって、約束を破ってしまっている以上、右乳首市が劣勢である。


 花を踏み潰してしまってから、大統領は「借金しちまったら、一万も一億も変わんない」の理論を発動し、どんどんとハムで左乳首市の領地を侵略していき、すでに左乳首市のある左乳首より左側にまで右乳首市のハムは伸びてしまっていった。


 もはや、右乳首は左乳首よりも左側にまで領地を伸ばしていたのだ。


 どうする、右!


 


















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る