叔父さんが……?


『君を助けようとして一緒に転落したんだよ』


 エマは飛び降りる直前の出来事を回顧する。瀬戸山さん蹴り倒して知らん男に椅子投げた後、俺の名前呼んで腕掴んできたのって……。


『君は死にたい一心で記憶に留まっていないかもしれないけど、叔父さんは君の為なら命を捨てる位の覚悟はいつだって持ってるんだよ。今回は無謀だったと思うけど、叔父さんが死んだら僕と君が殺したようなものだよね』


「……」


『おじさんはもっと生きていたいと思ってるよ、意識は無くても君が一命を取り留めてるのは分かってるからね。例え後遺症が残っても、寝たきりになっても』


 エマは寝転んだ体勢のまま“エマ”のに話を聞いていた。


『知っておく必要の無い話だけどついでだから教えてあげる、“エマ”って名前を付けてくれたのは叔父さんだよ。ヘブライ語で「神は私たちと共にいます」っていう意味でね、「快活で大きな愛情を持った子に育ってほしい」という願いを込めてくれたんだ』


「叔父さんが?」


『そうだよ、お父さんは叔父さんとお母さんとの仲をずっと疑っててDNA鑑定までさせたんだよ。結果当たり前だけど叔父さんの子でないことが証明されても君のことに殆ど興味を示さなかった。お母さんへの暴力もいつまでも仕事をしなかったのも構ってほしかったから、心中もその延長でそんなのにいつまでも振り回されるのって馬鹿馬鹿しくない?』


 “エマ”はエマを見下ろしたまま淡々と語る。“彼”の態度にエマの気持ちも徐々に落ち着きを取り戻していく。


「だったら一人で勝手に死ねばよかっただろうが」


『まぁそうなんだけど、お母さんは最終的にその我儘を受け入れたんだよね。《エマを殺すか俺と死ぬか選べ》って、聞いて呆れる話だけどお母さんは君を生かす選択をした、それだけのことだよ』


 くだらない……エマは腹の底からそう思った。ここまで悩んできたのは一体何だったんだ? それはそれで腹の立つ話だが、今更死んだ人間を責め立てても何の生産性も無い。エマは自分が正気に戻ってくるのを感じて上半身を起こした。


「俺はまだ生きてるんだよな」


 うん。“エマ”は笑顔で頷いた。


「叔父さんまだ助かる可能性、あるんだよな」


『それは君次第、まずは目を覚まそうか』


 “エマ”は白い手をエマに差し出した。叔父さんを助けたい!でもまだ怖い……七年間殻に閉じこもっていたエマは“エマ”の手を取ることが出来ないでいる。


『余り時間は無いよ、今は叔父さんのことだけを考えて』


 分かった。覚悟を決めたエマは“エマ”の手を取って立ち上がった。

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