「なおちゃん……」


 エマはスマートフォンが手元から無くなって顔を上げると、不機嫌そのものといった表情の直子が立っていた。


「着信の相手、知ってる子?」


 エマは何の気無く頷くと、このことは内緒にしててと口止めする。


「なおちゃん、そのままきれるのまとう」


「何で? 放っておくと何度も掛かってくるよ、あたしが上手く話してあげるから。いい? 二人だけの秘密だよ」


「うん、わかった……」


 エマは言われるまま頷くと、直子はそのまま部屋から出て行った。


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「今日は捗りましたよ。外の掃除まで出来るとは」


「助かりました、ありがとうございます」


 蕪木は準備していたペットボトルのお茶を四本差し出した。


「ほんの気持ちです」


「いつの間に……遠慮なく頂きます」


 代表者の男性が嬉しそうに受け取った。実は彼らが作業をしている間にこっそりと抜け出し、近所にあるコンビニエンスストアで間食と一緒に買っておいたのだった。


「では本日はこれで、次回はひと月後に伺います」


「宜しくお願いします、それまでに空き部屋の準備を整えておきます」


 蕪木は四人に一礼し、会社に戻っていく彼らを見送った。さて帰るか。そう思って家の中に置いていた荷物を回収していると、外でコトンと音が聞こえてきた。何だ? 気になって外に出ても特に変わったことは無い。それでも気になって玄関周辺を見回してみると、郵便受けに新たなチラシなどが入っていた。蕪木は何の気無しにそれらを引っ張り出し、仕方無く持ち帰ろうとバッグに放り込む。その中に紛れていた葉書がするっとこぼれ落ち、気になって黙読するとエマ宛のものだった。


「そろそろ転送手続きしておくか」


 蕪木はエマ宛の葉書に目を通してあっと声を漏らす。差出人の名前に憶えがあり、相手に甥っ子の近況を伝える必要性が出てきてしまったことを思い出したのだった。差出人とエマはほぼ毎年この時期に一週間ほど顔を合わせる仲だった。二人はその度に蕪木のマンションに入り浸り、気の済むまで遊び回って話し込んで一緒に勉強していた。

 因みにエマは差出人のことは憶えていた。ただ問題なのはどの時期の姿で憶えているのか、という事だ。昨年の姿を憶えているとは限らない、幼少期の姿しか憶えていないとなると余計な混乱を招く結果となってしまう。これは自分の一存で決められない、ここは一旦みんなの元に持ち帰ろうと決めた。


「もうそんな時期か……まずは瀬戸山とエマに確認だな」


 蕪木は葉書をバッグに入れ、沖野家を後にしたのだった。

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