「このお家、一見荒れてはいますが所々綺麗に片付いているんですよ」


「ご存知でしたか? トイレと風呂は新居レベルの綺麗さですよ。基本的な洗浄のみで充分でしたから」


 業者たちは口々に倫子とエマの頑張りを褒め称えてくれる。蕪木は二人の頑張りを見てきたので、初対面の彼らの言葉は素直に嬉しかった。


「水回りの掃除は今は入院中の甥っ子がしていました、母親は虚弱体質でしょっちゅう体調を崩しておりましたので」


「そのようですね、やりかけの状態も見受けられますから。この調子ですと予定より早く終われそうですので、二階部分の荷物を梱包も済ませてしまいましょう」


「助かります、今のうちに選別しておきますよ」


「でしたらダンボール取ってきます」


 最若手らしき男性が軽い足取りで外へ出て行き、蕪木はファイルを片手に二階へと上がった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その頃エマは一人病室でアルバムとにらめっこをして渋い表情を見せていた。主治医である瀬戸山と美濃は勤務中、進藤一家も仕事に出掛けている。身に覚えの無い出来事が写真として残っている、いくらあの時にあんなことがあって……と説明をされても、他人の人生を自分に押し付けられているような気分になってどうも受け入れ難かった。

 それでも覚えていたことが一つだけあった。物心付いた頃から仲の良かった幼馴染の存在だ。彼の名前は久慈佑介クジユウスケ、何時離れ離れになったかまでは覚えていないが今は両親の仕事の都合で関西に移住していることは何故か記憶に留まっていた。

 叔父の蕪木が言うには相当仲が良かったからだろうとの事で、その幼馴染“ゆうくん”に関することだけはスラスラと思い出されて楽しい気持ちになるのだった。


「ゆうくんげんきにしてるのかなぁ?」


 ふと思ったことを口に出したその時、枕元に放置してあるスマートフォンがブルブルと震え出した。

 おじちゃんかな? エマはそれを掴んで画面をチェックしたはいいが、その先どうしたらいいのか戸惑ってしまいそのまま固まってしまう。

 スマートフォンの操作自体は問題無く使用出来る。蕪木に軽く教えてもらったのもあったが、十七歳になっている体が勝手に覚えていてメール操作も難なくこなせている。エマが着信に出ようとしなかったのは先程脳裏に浮かんだ久慈佑介であるからだ。

 なんてはなせばいいのかな? しょうじきにきおくそうしつだっていってしんじてくれるかな? エマはそれが元で友達を失うのが怖くなっていた。ゆうくんならわかってくれるとおもいたい、でもいまのぼくをうけいれてくれるのかな? と考えている間に手の中にあったスマートフォンが消えて無くなっていた。

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