ね
沖野家を後にした蕪木は、先程届いたばかりの葉書を瀬戸山に見せようとケータイを取り出した。彼もこの日は非番で、最近はほとんど自宅に居ると言っていた。
『よぅ、どうした?』
「さっきエマの親友から葉書が届いた。毎年夏休みに会ってる子なんだが……」
今は外出しているようだ。外の喧騒が電話越しに聞こえてくる。
『ふぅむ、ひょっとして唯一憶えてた子か?』
「あぁ、エマの耳に入れていいものか……」
『いや、今年はエマ君の耳に入れずに事情を話して断った方がいい気もするが……それで崩れるならその程度の仲ってことだしな。で、内容は?』
「【進学する専門学校の下見も兼ねて会えないか?】って」
蕪木は葉書を見ながら概要を説明する。
『うむ、いずれにせよこっちには来るのか……エマ君の状態を考えると今年は会わせたくないな。しかし彼……久慈君だったか、に事情を知らせる責務はあるだろう』
「そうだな、まだ怪我も完全に癒えた訳じゃないし。佑介君には俺から話す」
『あぁ、そうだな。それより連絡先は分かるのか?』
「エマのケータイを借りるさ」
『ちゃんと断りは入れろよ』
瀬戸山の冗談めかした発言に蕪木は思わず笑ってしまう。分かってるさ、そう言い返して通話を切り、ひとまず病院に向かうことにした。
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蕪木は久慈佑介の連絡先を知りたくて早速エマにケータイを借りられるよう交渉すると、うん、いいよとあっさりケータイを差し出した。
「すぐ返すから」
ささっとエマのスマホを操作して久慈佑介の連絡先を入手し、仕事帰りに顔を出した頼子と入れ替わって病室を出る。取り敢えず患者の迷惑にならない場所に行こうと建物の裏手にある病院所有の公園のベンチに落ち着いて久慈佑介のケータイへ発信する。
行動を起こしてから気が付いた、久慈は蕪木の携帯番号を知らないはずなので通話に出てくれるとも限らない……少々早まったかとも思ったが、予想に反してあっさりと呼出音が終了した。
『はい』
久慈独特の少々くぐもった声が聞こえてくる。蕪木にとっても懐かしさがあり、声から察するに元気そうなのでひとまずは安心する。
「蕪木です、お久し振り」
『『お久し振り』ちゃうわ! 何が一体どないなってんねん!』
開口一番ブチ切れてくる久慈に一瞬面食らったが、意味もなく怒り散らす男ではないのでひとまずは話を聞いてみることにする。
「申し訳ないが君の怒りの理由が分からない、説明してもらえないか?」
久慈にとっては火に油を注ぐ聞き方だったかも知れないが、そこが分からない以上蕪木も対応の仕様がない。
『説明? さっきエマのケータイに通話したら『金輪際連絡しないでくれ』って、理由聞いても同じことしか言わん!』
「通話? 履歴残ってなかったぞ……その電話の相手、分かるか?」
『まともに名乗りもせん。女の声で『親戚の者です』、それだけやった』
これはやらかしたか……蕪木は用心が裏目に出たことを思い知った。
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