け
「調子はどうだ? エマ君」
瀬戸山はいつものように何気無い会話から問診を始めていく。
「良いと思います、頭痛とかもありませんし」
エマもにこやかな表情で言葉を返す。
「何か思い出したことはある?」
「特に無いです、ただ……」
エマは言いにくそうに下を向く。瀬戸山は急かさずに次の言葉をじっと待つが、目の前の患者はこれまでに一度も見せてこなかった表情だったので少しばかり気になってしまう。
珍しいな、こんな顔するの。
そう思いながらエマの表情を観察していると、考えがまとまったのか話す決心がついたのかただ、ともう一度繰り返した。
「先日緩和ケア病棟でのボランティア活動で綺麗なお婆ちゃんにお菓子をお出ししたんです。女優さんらしいのですが全然思い出せなくて……」
瀬戸山は最近緩和ケア病棟に入院してきた末期癌の女性患者を思い出してあぁ、と言葉を漏らした。
「思い出せなくても無理ないよ、あの方舞台女優さんだからエマ君くらいの年代であれば見たことが無くても不思議じゃないよ」
「そうなんですか? お名前……って聞いてもいいですか?」
記憶を失ってからのエマは目新しいことにさほど興味を示さなくなっていただけにこの現象は珍しかった。これも一つの成長かも知れないと良い風に捉えることにする。
「
はい。エマはにっこりと笑って頷いた。
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その頃蕪木は医務室でカルテのチェックをしていた。このところ患者の入れ替わりが激しく、新規で入院してきた患者の状況も空き時間である今のうちにきちんと把握しておく。ところがこんな時に限って携帯しているPHSが鳴り、通話に出てみるとナースコールがあって病室に向かうと患者が痛がっていると言うことだった。
すぐ行く。ナースコールのあった病室のカルテを持って現場に向かうと最近入院してきたばかりの年老いた女性患者がベッドの上でうめき声を上げてのたうち回っていた。
「
奥貫と言う名の女性は返事をする余裕すら無さそうでまともな反応は返ってこない。
「取り敢えず痛みを取りましょう、少しだけ体を押さえますよ」
その言葉に看護師たちは女性の体を押えながら、ほんの少しだけ我慢してくださいと声を掛ける。蕪木は慣れた手付きで注射を一本打つと、少し経って女性の動きが落ち着いてきた。
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