ふ
ここ最近のエマはスマートフォンと向き合って何やら調べものをしていることが多くなった。その後母親となりほとんど実家に寄らなくなっていた直子が久し振りに姿を見せ、そんな甥っ子を不思議そうに見つめている。
「何見てんの? さっきから」
「うん、ちょっとね」
エマは一応返事はするが画面から視線を外さない。直子はそれが気に入らなくてスマートフォンを取り上げ、断りも入れずに画面を見た。
「返してよ直ちゃん」
エマはスマートフォンを取り返そうと腕を伸ばすもあっさりとかわされてしまう。ところが期待していたものと違っていたのかこれと言った反応も示さない。
「誰この人? それを教えてくれたら返してもいいわ」
何だそんなことか……エマは答えるから返してねと念を押した。
「真行寺サヤって女優さん、この前たまたまネット見てたら偶然見付けたんだ」
「へぇ、見憶え無いけどなぁ……ってか知らない」
「舞台女優さんなんだって、テレビにはほとんど出ないって書いてあった……スマホ返してね」
と直子が話に気を取られている隙にスマートフォンを奪還すると、指先で画面をちょんと突いて待ち受け画面に戻した。
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「エマ君、患者さんの散歩、付き合ってくれないかな?」
この日もボランティア活動に参加していたエマは、リハビリでお世話になったトレーナーの杉浦に呼ばれた。
「分かりました」
エマは杉浦の後ろを付いて歩く。身長差三十センチ近くある二人が一緒にいるとまるで親子のようで、長い脚でさくさく歩く後ろをちょこちょこと付いて行く様子がまるでカルガモの親子行列と言った感じだ。それを遠目で見つめていた久慈は人目もはばからず思わず吹き出してしまい、上司に頭を小突かれていた。
「奥貫さん、お散歩行けそうですか?」
杉浦はノックをしてからドア越しに声を掛けた。
『準備出来てるわ』
女性の声を聞いてから杉浦はドアを開ける。奥貫と言う名の患者は部屋のほぼ中央に位置している椅子に腰掛けてすでに待機していた。彼女は先日エマが菓子をふるまった真行寺サヤで、この日もお洒落な服を着て綺麗に化粧を施していた。
「あら、今日はイイ男が二人もお供してくださるの?」
「またまたご冗談を、今日は歩かれますか?」
「そうね、体調も良いし」
二人は奥貫を間に挟むように立ち、ゆっくりとした歩調で散歩に出掛ける。
「この前はありがとう……手をお借りしても宜しいかしら?」
どうぞ……エマは緊張しながら手を差し出すと白い手でそっと握ってきた。彼はこれまでに無い緊張感を抱えたまま患者の散歩に付き沿い、ふわふわとした時間を過ごしていた。
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