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それから一日明けてから、頼子は神林のことを瀬戸山に相談した。う〜む、彼は顎をつまみ、どうしたものかと唸り声を上げる。
「私、余計なことしちゃいました?」
「いや、連絡を取る間柄の友人だったんだから知らせておくのも有りだろう。ただエマ君が彼のことを思い出していないのが……」
「えぇ。それに履歴残したままなので」
「それなら伝えよう、事後報告で後々混乱させるより良いだろう。それにこれがきっかけで神林君を思い出すかも知れないし」
瀬戸山と頼子は早速エマに前日のことを話した。
「ごめんねエマ、勝手なことしちゃって」
「だいじょうぶだよよりちゃん、きにしないで」
エマは特に気にするでもなくこの日もアルバムと向き合い、リハビリをこなして一日を過ごす。その後エマは神林の事を思い出すことはなく、退院の日も刻一刻と迫っていた。
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九月に入り、蕪木は走れるようになったエマの外出許可を得て空家となっている沖野家に向かう。エマがこの街にやって来たのは四歳、当時は父親も元気に働いていてマイホームに夢を乗せていた頃だった。
「ホントにおうちにむかってるの?」
「あぁ、そうだよ。エマの記憶とは随分と違うのか?」
「うん、あんなにおおきなたてものとかなかったもん」
エマは蕪木運転の車の中で落ち着かなさげに窓に貼り付いて景色を眺めている。この様子だと退院してここに戻ったところで馴染めるだろうか……蕪木の脳裏でそんな不安が頭をよぎる。それからほどなく沖野家に到着し、蕪木は車庫のシャッターを開けて車を入れた。車庫の裏口からそのまま敷地内に入り、かつて倫子使っていた鍵で家の中に入る。
「あれ? うちこんなにひろかった?」
エマは蕪木に用意してもらったスリッパに履き替えて慣れたようにずんずん奥へ入っていく。
「一度プロに掃除を頼んだんだ。かなりの物が壊れてて処分したからな」
「そうなの? ぼくのおへやのも?」
「いや、エマの部屋はそのままだ」
上がってみるか? の言葉にエマは頷き、自ら率先して階段を駆け上がる。
「ぼくここからおちたんだよ」
「あぁ、そうだったな。その時は奇跡的に無傷だったんだぞ。当時診察してくださった先生も驚かれていたよ」
そうなんだね。エマは無邪気な笑顔を見せて迷わず自身の部屋の前に立つ。
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