く
「エマ?」
後ろに付いていた蕪木の甥っ子の変化に気付く。エマは部屋の中を凝視したまま中に入ろうとしなかった。視線は奥にあるベッド一点に集中しており、瞳孔が開いてしまっている。
迂闊だった……! 蕪木の脳裏に二ヶ月前の出来事がフラッシュバックする。固まっている甥っ子に慌てて駆け寄るも、エマの顔色が青くなり、口を抑えてしゃがみ込んだ。
「エマッ!」
エマは胃の中の物を吐き出していた。蕪木はエマの部屋に入ってまずはティッシュケースを取るも、埃がうっすらと溜まっていて数枚引き出してケースを拭う。ついでにゴミ箱を抱えてエマの手と口を拭いてやった。嘔吐したのはその一度だけだが、喉にまだ何か支えているのかなかなか咳が治まらない。とにかくありったけの量のティッシュを使って嘔吐物を片付け、収納部屋に残してあったウェットシートで床を拭き直した。
「下に降りよう。動けるか?」
エマは時折咳き込みながらもその言葉に頷いた。二人は一階に降り、まだ使えるとキッチンに置いてあったペットボトルの水を開封した。
「これで手と口を洗え、タオル取ってくる」
キッチンでエマの手を洗い口をゆすがせ、蕪木は持参していたタオルを引っ張り出した。
もしかして思い出したのか?
手と口を洗い終えたエマにタオルを手渡し、まだ咳き込んでいたので背中をさすってやる。そのうち少しずつ落ち着いてきて咳もしなくなった。
「おじちゃん……たいいんしたらここにすまなきゃダメ?」
「いや、進藤家に移る予定だ。四日後にここは空になる」
蕪木はエマを慰めるように体をさする。エマは安堵の表情を見せ、はやくここからでたいと言い出した。何か思い出したのか? 気にはなったがこの場では聞かないことにして沖野家を後にした。病院に戻った二人は瀬戸山にこのことを報告した。エマはすぐさまベッドで休むことになり、進藤夫妻も呼び出してエマを引き取り家を売りに出そうという話に収まった。
「潜在意識というやつが拒絶する以上、医師としてはあそこに戻るのはお勧めできません」
瀬戸山の言葉に一同は頷く。頼子の父
「部屋も余ってるしな。一聖、お前も来るか?」
「そうしなさいよ、エマのことを考えたら悪い話ではないでしょ?」
「考えておきますよ」
蕪木は苦笑いしつつ、それも悪くないかと思った。
それから事は順調に運び、エマの退院とともに蕪木も含めた五人での生活が始まった。
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