うん、ええよ。久慈はあっさりと誘いに乗り、二人はカフェに入る。


「いらっしゃい。しばらく振りだね蕪木君」


「そうですね、今日はエクアドルを。佑介君はどうする?」


「あ〜俺コーヒー飲まれへんねん、紅茶ってあるんかな?」


 久慈はあくまで蕪木に返事をしていたのだが、男性店主にございますよと返されて若干焦りの表情を見せた。


「あっ、えと、贅沢を言えばロイヤルミルクティーが良いんですが」


「畏まりました、お好きな席をご利用ください」


「どうも」


 蕪木は久慈を連れて壁際の二人用テーブル席に落ち着く。


「こんな洒落乙な店しょっちゅう来てんの?」


 久慈はどちらかと言えば女性客の多い店内を落ち着かなさげにキョロキョロとも見回している。


「月に一度来るか来ないかだな、それよりコーヒーは苦手だったのか?」


「うん、まぁ……飲まれへんだけで香りまで嫌とちゃうから別に大丈夫やで。早速なんやけど聞きたいことって何?」


 久慈に促される形で蕪木は“たこちゃん”のことを訊ねてみた。


「あぁ、そいつ今アメリカにおるよ。小学校卒業と同時に親御さんの仕事の都合で。名前は生方航生ウブカタコウセイ、真ん中の二文字を取って“たこ”。女みたいな顔しとったから殆どのヤツがちゃん付けしてたわ。筆不精な男でほっとんど連絡寄越してこんけどな……エマあいつのこと思い出したんや」


「あぁ、当時の写真見せたらニックネームだけ。あと植山先生のことと」


「あんの鬼教諭怒ったらマジで怖かったからなぁ、“たこ”とエマと“とむ”って奴と俺はほんまよう怒られた。しょっちゅうイタズラしとったから当たり前なんやけど、ちょいちょいご自宅で奥さんの手料理食わせてくれたんや。“たこ”ん家とウチは仕事で親殆ど帰ってこんかったし、エマんとこはあんなやったし“とむ”んとこは毎日のように母親が男連れ込んどったから家に寄り付かんかったしな」


「そうか……それで思い出せたんだな。ってことはかなり親しかったのか?」


「うん。俺ら出席順が四人続いてたんや、生方、沖野、神林カンバヤシ、久慈って」


「じゃあ普段から親しくしてたんだな」


 うん。久慈が頷いたタイミングでテーブルにお冷が置かれ、喉が渇いていたようでおもむろにグラスを掴む。


「その神林君って子は?」


「九州の全寮制の高校に通ってる、あそこの母親男とトンズラしたらしいわ。“とむ”はむっちゃ賢いから特例で学費無料を勝ち取ったって、“たこ”よかはマメやからひょっとしたらエマんとこにも連絡来るかも知れん」

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