この日を境に奥貫とエマは事ある毎に行動を共にするようになる。歳が近ければ良からぬうわさも持ち上がっていただろうが、お祖母ちゃんと孫ほどの年齢差も手伝って周囲は比較的穏やかだった。奥貫はエマに余計な気を遣わせないよう独り占めせず、エマも集団でいる時はなるべく他の患者と接していた。本人は全く気付いていないが、若い女性ボランティアの中には目を付けている者も少なからずいた。


「エマ君、来週ダンスパーティーあるじゃない?良かったら私とペアを組まない?」


 彼女は大学で福祉を専攻しており、勉強と称してボランティア活動に参加している。しかし実際は可愛いルックスを活かして若い男性スタッフに纏わり付き、本業は手抜き気味だった。


「え? 僕スタッフだよ」


「それが何?」


 彼女はまだ一年目なので、パーティーではスタッフ同士がペアを組めないことを知らない様子だった。エマはそのことを理由に誘いを断ったが何故か納得してくれない。


「どうせあの色目ババァとペア組むんでしょ?」


「スタッフからは誘えないよ、それに色目ババァって誰のこと?」


 きっとしのぶさんのこと言ってる……それが気に入らなくて目を吊り上げたのが予想以上に怖がられてしまい、彼女は引き攣った笑みを見せて後退る。


「じょ、冗談よ……今のは忘れて」


 それだけ言うとあっという間にいなくなってしまい、取り残されたエマは一体何だったんだ? と溜息を吐いた。


 そして当日、エマは裏方として忙しく動き回っていた。一方の奥貫はお誘いがひっきりなしで、相手を変えつつ始終踊りっぱなしのようだった。そんな様子を気にしながら軽食を出したり後片付けをしていたのだが、三人ほどと踊ったところで奥貫の姿が見えなくなった。

 しのぶさん? エマは仕事が一段落ついたところで持ち場をこっそりと抜け出した。どこ行ったのかな? ロビーやトイレを探しても見当たらず、外に出て病棟の周りを探していると、中庭のベンチに腰掛けて満月を眺めていた。


「外は冷えますよ」


 エマの声に反応した奥貫ははにかむ様な微笑みを見せ、月灯りに照らされてとても美しかった。エマの心臓は跳ね上がるような脈を打ち、体が熱くなっていくのを感じていた。


「少し涼んでたの、隣座らない?」


 エマは激しく打ち付ける鼓動を抑えながら奥貫の隣に歩み寄る。鎮まらない体の熱を感じ取られたくなくて一人分ほどの間隔を開けたところに落ち着いた。

 この気持ちは何なんだろう? すぐには分からなかったが、これまで以上に奥貫と一緒にいたい気持ちが強くなっていた。そんな気持ちを察してか、彼女の方から間隔を詰め、エマの手をそっと握ってきた。

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