パーティーから一夜明け、エマは奥貫と更に親密になっていく。彼女と共に料理を作ったり院内公園を散歩したりと些細なものだったが、二人は時間を惜しむ様に小さなデートを楽しんでいた。


「最近何か良いことあった?」


 二人の噂は瀬戸山の耳にも届いており、定期診察にやって来たエマを見てニヤリと笑う。


「良いこと……ですか?」


「ほら、彼女が出来たとか」


 彼女……そう言われてエマの顔が徐々に赤くなっていく。


 しのぶさんが彼女……本当にそうなら嬉しいな


「ハハハッ、君も隅に置けないね」


「ち、違います! 彼女だなんて……」


 と呑気そうな会話をしているところに一人の男が乱入し、エマの名を大声で呼ぶ。


「何やってんだ! 診察中だぞ!」


 瀬戸山は乱入男こと久慈に一喝するが、全く怯む様子もなくエマの元にずかずかと入り込む。


「それどころじゃないんだよ! 奥貫さんが……!」


「しのぶさんがどうしたの?」


「さっき容態が急変した。瀬戸山先生、エマをお借りします」


 急変? 今朝お会いした時はお元気だったのに……エマは友の言葉が信じられず放心状態となる。


「ホラ行くぞ、きちんとお別れしろ」


「そんなこと急に言われても……」


 エマは久慈の残酷な一言に泣きそうな表情を見せる。瀬戸山もエマの傍に歩み寄り、立ち上がるよう促した。


「私も行こう、今行かないと後悔するぞ」


 エマは二人に引きずられるように診察室を出て、奥貫の待つ緩和ケア病棟の一室に向かった。


 部屋に到着すると蕪木と二人の看護師が待っていた。奥貫はただ静かにベッドに横たわり、その時をただ静かに受け入れているようだった。


「しのぶさん……」


 エマはフラフラした足取りで奥貫が横たわるベッドに近付いていく。白い服から覗く彼女の腕はすっかりやせ細っており、自力で動かせる力も残っていなかった。

 エマは何も考えず奥貫の手を握る。何か声を掛けたいのにこんな時に限って何も思い浮かばない。ただ離してなるものかと握る手に力を込め、剥き出しになった腕を優しく擦る。エマに握られている奥貫の手が微かに反応して弱々しいながらも手を握り返してきた。そしてうっすらと目を開けて口角を上げ、一言呟いてゆっくりと頷いた。


 ありがとう……


 奥貫の手から力が抜け、そのままピクリとも動かなくなった。蕪木は手首を触り、ペンライトで目の動きを確認すると非情な一言を告げた。


「ご臨終です」


 と。

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