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エマの暴言は隣の集中治療室にも届いていた。美濃は初めて見る本性に苦笑いしていたが、中には不快感をあらわにする者もいて一瞬手が止まってしまう。
「オペの邪魔になります、出て行ってもらいましょう」
「放っておけばいいわ、目の前の患者に集中なさい」
美濃はさっと表情を引き締めて患者に意識を集中させる。
「しかしこのままでは……」
「あなた医者でしょう、坊やの雑音ごときで取り乱さないでちょうだい」
“鋼の女”の容赦ない一言に若手医師は苦い表情を見せつつ押し黙ったところで看護師の声が空気を変えた。
「血圧が上昇しました!」
その場に居た医師たちの集中力が一気に高まる。素人であるエマにはさっぱり状況が分からなかったのだが、瀬戸山と杉浦の反応で蕪木が息を吹き返す可能性が高まったことに気付く。エマは目を閉じて手を合わせ、ひたすら叔父の『復活』を祈り続けた。
長丁場だった緊急手術は無事に成功し、一般病棟に移された蕪木は、丸一日眠った後に意識を取り戻した。系列病院にいるはずの美濃がここにいることに多少の驚きはあったが、それよりも甥っ子のことが気になってエマは? と訊ねた。
「開口一番それですか? あなたの方が重傷なんですよ」
美濃は患者に対してとは思えない呆れ口調でため息を吐いた。
「そう易々と死ぬつもりはありませんよ」
「はいそうですか。彼散々暴れ回ったらしいですね、今そのことで院内はピリピリしていますよ。瀬戸山先生も対応に追われています」
「関係者に迷惑を掛けました。せめて謝罪だけでも……」
「先ずは怪我を治してください、謝罪云々は瀬戸山先生付き添いの元本人がしてるみたいですよ。それにしても記憶の戻ったエマ君ははた迷惑な糞ガキですね、可愛かったあの頃が懐かしいわ」
美濃は体を起こそうとした蕪木を引き留める。面目無い、蕪木は苦笑いするしかなかった反面、記憶の戻ったエマに早く会いたくて仕方がなかった。
「ご家族への連絡は私がしておきます、今は誰かしらエマ君の病室にいらっしゃるでしょうから」
「お手間掛けます、ただ進藤家にはエマを優先するよう伝えてください」
「そうはいきません、先程申し上げた通りあなたの方が重傷なんです。そうでなくても頼子さんが……」
美濃はそこまで言って口をつぐむ。つい口が滑った訳ではなくわざと口を滑らせて蕪木の反応を窺っていた。
「頼子がどうかしましたか?」
「いえ、どうもしませんよ。結構な鈍感男ね」
美濃はそう言い捨てて病室を出て行った。一人残された蕪木は美濃の言葉の意味が分からずキョトンとしている。
「だから頼子が何なんだ?」
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