親戚縁者のいない奥貫の葬儀は緩和ケア病棟で行われた。エマは憔悴しきっていたものの他のボランティアメンバーと共に葬儀の準備に動き回り、両親の時のようのトラブルを起こすことなくきちんと参列して奥貫の最期を見送った。その後最初の昇天記念日でも彼女を偲ぶ態度を見せ、これまでと変わらずボランティア活動も真面目に参加していた。

 蕪木を始めとした親戚たちはそんな甥っ子の行動を成長と捉えていた。しかしこのタイミングで何故かエマの居ない間に蕪木と頼子が心療内科に呼ばれていた。


「どうした? 本人抜きでここに呼ぶなんて」


 蕪木は瀬戸山の意図が分からず冗談話でもするかの様に軽く訊ねる。ところが瀬戸山の表情は固く、普段飄々としているだけにその態度に妙な違和感を覚える。


「エマ君の診察日数を増やそうかと思ってさ。その了解を得るために二人をここに呼んだ」


 えっ? 蕪木と頼子は顔を見合わせる。


「どうしてまた急に?」


「奥貫さんが亡くなられたショックが大きいからだよ。只でさえエマ君は全ての記憶を取り戻している訳じゃない、このことをきっかけに何が起こるか分からないからね」


「七年経った今になって……そんなことあるのか?」


 蕪木は一年を過ぎた辺りからエマの記憶が戻った報告を受けていなかったためか、心の何処かでこのまま成長するのではと思っている節があった。


「無いとは言い切れない、葬儀でのエマ君は寧ろ立派な態度だったと言えるが……俺の杞憂で終わればいい、様子を診させてくれないか?」


 蕪木は隣に居る頼子を見る。頼子もその視線に気付いて蕪木の方に顔を向けて小さく頷いた。それで従妹の考えと一致したことを察し、瀬戸山に向き直った。


「宜しく頼む、エマには……」


「俺から話す。二人はいつも通りに接してくれればいいから」


 分かった。三人の間で話がまとまり、蕪木は頼子を見送ってから緩和ケア病棟に戻ると、ボランティア活動でリーダー格の女性が蕪木に駆け寄ってきた。


「少しお話出来ますか? 沖野君のことで……」


「エマに何かあったんですか?」


「えぇ……場所を変えても宜しいですか?」


「分かりました」


 蕪木は女性を連れて別室に移動した。

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