ゑ
『……エマ、……エマ』
エマは誰かに呼ばれたような気がして目を開ける。視界に入ったのは頼子、直子、瀬戸山の三人だった。
「エマ?」
先程からずっと声を掛けていたのは直子のようだった。普段滅多に泣き顔を見せない彼女の目は真っ赤に腫れ上がってしまっている。直子はエマの手をぎゅっと握り締めて涙をこぼす。
「直ちゃん……?」
「どんだけ心配したと思ってんのよっ!」
「……ゴメン」
エマの話し方の変化に気付いた直子は甥っ子の顔を凝視する。
「あんたまさか……記憶戻ったの?」
「あぁ、それより叔父さん……! ってぇ……」
エマは蕪木のことが気になって体を起こすも、怪我をしているせいで痛みも伴い思うように動けない。直子と瀬戸山がエマの体を支え、その様子を頼子は怒りを込めた表情で見つめていた。普段滅多に怒りを顔に出さないだけに、自身のしでかしたことの重大さを改めて思い知る。
「……なんてことしてくれたの?」
叔母の言葉にエマは何も答えられない。否は百パーセント自身にある、ゴメンの一言で済まされる程甘い話ではない。
「……叔父さんは?」
「集中治療室、意識は戻ってないわ。このまま逝くのも覚悟しておいた方が良いって」
「そんなの今言わなくていいじゃない! 今だって先生たちが……」
直子は怒りの治まらない頼子を必死に窘めている。頼子が怒るのも無理はない、だって叔父さんのこと……エマは申し訳無さそうに叔母の顔を見た。
「頼ちゃんの気持ちは分かるよ、俺よりも叔父さんが生きててくれてる方が嬉しい……」
「訳無いでしょっ! 馬鹿なこと言わないでっ!」
頼子は怒りに任せてエマの二の腕を掴む。痛くて悲鳴を上げそうになるが、その手から彼女の思いがひしひしと伝わってきて振り払うことが出来なかった。
「私はエマにも一聖くんにも生きててほしい、何で分かってくれないの……」
頼子は感情が昂ぶって涙をこぼす。
「頼ちゃん……」
「もう二度とこんなことしないって約束して」
エマは頼子の言葉にただ黙って頷いてから、傍らで体を支えている瀬戸山の方に顔を向けた。
「瀬戸山さん、我儘なのは分かってんだけど……」
「集中治療室に行きたいんだろ? ちょっと待ってろ」
瀬戸山はエマから離れて病室を出る。少し待つと杉浦を伴い車椅子を用意して戻ってきた。
「今晩が山だそうだ。頼子ちゃんも言ってた通り、覚悟はしておいてくれ」
エマは杉浦の助けを借りて車椅子に乗り、その場に居た全員で集中治療室に向かった。
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