き
一旦気になりだしたせいか、エマの行動に抜け目が目立つようになってくる。今のところ家事のみだが、このままではボランティア活動でもいつ何をやらかすか分からない。瀬戸山の問診にも上の空だったりすることもあるようで、エマをしばらく休ませることにして奥貫の眠る公営霊園に連れ出していた。
奥貫は生前のうちに自身の墓を購入しており、入院の際に自身が死んだ時はここに埋葬するよう言われていた。葬儀は無縁葬だったので緩和ケア病棟のプロテスタント教会で執り行ったが、霊園側から何も言われる事なく仏式の墓に安置されている。
「ここに奥貫さんのお墓がある」
「そうなの?」
エマは彼女から聞いていなかった様で驚きの表情を見せている。ここなら病院からは徒歩圏内、心療内科の診察帰りにいつでも立ち寄れると説明した。二人は軽く墓の掃除をして花と菓子を供える。風が急に強くなってロウソクに火を灯すのに手間取ったものの、線香を立てて墓前に手を合わせるとエマの顔から笑みがこぼれた。
「僕……病室に行けばしのぶさんに会えるような気がしたんだ」
エマは蕪木が問い質そうとする前に自ら話を切り出した。
「でも新しい方が入院されるからもう入れないんだよね?」
「あぁ。ここなら誰にも迷惑は掛からない、時間制限はあるがな」
「うん、ここの方がしのぶさんを感じられる気がする」
また来るね、しのぶさん
エマは心の中でそっと呟き、蕪木と共に霊園を後にした。
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奥貫の墓の存在を知ったことでエマの精神状態はいくらか安定してきた。瀬戸山の問診を終えてからの墓参りが功を奏しているようで、家事仕事もきっちりこなし、笑顔も増えてきてボランティア活動の復帰にも前向きな姿勢を示していた。
この日も瀬戸山の問診を受ける為心療内科にやって来ていたエマ、いつもの様に第二病棟外来入口から入って心療内科に向かう途中で聞き慣れない子供の叫び声が聞こえてきた。
『おかあさぁーん!』
その声にエマの体は硬直する。思考が止まり、視界がぼやけ、周囲の音も届かなくなってくる。
「お、母さん……何で……?」
エマの意識はそこで途絶え、ぱたりとその場に倒れ込んだ。
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