この日非番だった蕪木は久し振りに沖野家の前に居た。先ずは家の中を片付けよう……そう思い立ってここで業者と待ち合わせをしている。

 それにしても荒れ放題だな……たまに進藤姉妹の母晴子ハルコが郵便物を回収したり庭の草むしりはしてくれていたのだが、この時期の雑草は成長著しく既に緑色まみれになっている。


「ここで何されてるんです?」


 と主婦らしき女性に声を掛けられる。


「どうも、この家の親戚の者です。家の中の清掃を業者に依頼しておりまして、今待ち合わせをしているんです」


 そうですか……女性はそう言って蕪木に近付いてきた。


「あの、息子さんの容態は?」


 蕪木は返事に少し間を置いた。


「意識は戻っていますが……」


「そうですか。聞いた話では面会が出来ない、と……」


 なるほど。面会に来た見舞い客の中にご近所さんもいたらしきことを知り、彼はえぇと答えた。


「完治するにはまだまだ時間がかかります。会話は出来ていますが精神的なショックが大きかったようでして、親族以外の面会が許されていないのです」


「そうだったんですね。月並みですがお大事になさってください」


「ありがとうございます」


 蕪木が礼を言うと女性は会釈して自宅に戻っていった。嘘はついていないがこの返答で正しかったのか悩みどころであった。ただ彼が恐れたのは噂があらぬ方向に広まってエマが傷つくことだ。この家にはトラウマもある、蕪木と進藤一家で話し合って一度綺麗に掃除してから最終的にエマを立ち合わせ、売却の同意を得られてから不動産屋と話を進める手筈となっている。


 それから程なくしてワゴン車と軽トラックが沖野家の前に停車する。車体には派手な色合いで会社名と連絡先がペイントされていた。


「本日のご利用誠にありがとうございます」


「宜しくお願いします、車はそこの車庫と中庭を使ってください。今から開けますので」


 蕪木は車庫のシャッターと外門を開けて車を招き入れる。二台の車からは男女二人ずつ出てきて早速庭から中を覗いている。


「下の階だけでしたら一日あれば」


「あとは二階のお荷物を進藤さん宅にお運びするのに一日、最終的なクリーニングと外の掃除で一日、計三日あればひと通りの作業は終えられますね。本日は一階の清掃を済ませましょうか」


 宜しくお願いします。蕪木は業者四名を招き入れた。

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