め
「……」
エマが意識を取り戻したのは瀬戸山と問診をしている心療内科のベッドの上だった。
今のところ誰もいない、ここですることはただ一つ……。
「お気付きになられた……沖野さん?」
エマの様子を診に来た心療内科の看護師の表情が一変する。意識を取り戻した患者は、五階にあるこの部屋の窓を全開し、正に今飛び降りるかの勢いで片足を窓枠に乗せていたからだ。
「何なさってるんですっ!」
「うっせぇ! 邪魔すんじゃねぇよ!」
引き留めようと駆け寄ってくる看護師に向け、手当り次第傍にある物を投げ付けていく。彼女は怯まずエマに近付こうとしていたが、百科事典レベルの大型本をぶつけられてバランスを崩し転倒してしまう。思わず悲鳴を上げた看護師の声で瀬戸山を始めとした他の医師が病室に集まってくる。警備の男性に引き留められたものの、火事場の馬鹿力を見せたエマはそれをも振り切ってしまった。
「邪魔すんなっつってんだろうがっ!」
エマは尚も引き留めようとする警備員に椅子を振り回す。瀬戸山が何やら声を掛けてきているのだが、今のエマには全く届いていなかった。
このままでは……! 瀬戸山は警備員の前に飛び出してエマが振り回している椅子を掴む。
「早まるなっ! ここで飛び降りても何にもならん!」
「今更俺が生きてて誰が喜ぶんだよ! 分かったような口聞くなっ!」
「何を言ってる! 君が死んで悲しむ人間はいるんだぞ!」
「んな綺麗事聞きたかねぇ! だったら何ってあいつらわざわざ俺の部屋で首吊ったんだよ!」
何だって? 記憶が戻ったのか?
その考えが頭を掠めて瀬戸山の動きが一瞬止まる。エマは隙を突いて彼の腹を蹴り、別方向から駆けつけて来た男性に椅子を投げ付けた。腹を蹴られて息が詰まった瀬戸山はその場に倒れて苦しそうに咳き込んでいる。エマは構わず窓枠に足を掛け、すぐにでも飛び降りようとしたところに白衣の男性が駆け寄ってきた。
「エマッ!」
その声にエマの動きが止まる。男性はエマの腕を掴んで引き寄せようとしたがそれを振り切って窓から身を乗り出していた。エマは飛び降りる体制に入っていた、男性も窓枠に足を掛けてエマの腰に腕を回したが……。
「一聖ッ!」
腹を蹴られて立てる状態ではなかった瀬戸山は白衣の男性の名を叫ぶ。窓際にいた二人の姿はほんの一瞬で跡形も無く消え去っており、次の瞬間外から複数の人間の悲鳴が聞こえてきた。
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