り
ぼくねちゃってた……?
エマが目を覚ますと辺りはすっかり暗くなり、三人の大人たちも既に帰宅していた。
みんないなくなっちゃった。
ぼんやりした視界のまま目をキョロキョロさせて辺りを見回すと、沖野さんと声が掛かって静かにドアがスライドされる。
「?」
「脳外科医の美濃です、夜間巡回で来たのだけれどもしかして眠れない?」
長身で細身の女医が室内に入りエマに声を掛ける。エマは勤務医と分かると警戒していた表情を少し弛ませた。
「いま、おきました……」
「そう。どこか痛いところとか不便なことは無い? それに汗を一杯かいてるわ、包帯を取り替えて着替えましょう」
美濃はエマの顔の汗をハンカチで拭うと、少し熱があるわね。と呟いてそっと右手首に触れる。
「七度八分ってところね。支度をしてくるから少し待っていてね」
はい。患者である青年がこくんと頷いたのを見届けてから、美濃は病室を出てPHSでナースに指示を飛ばし、医務局にもこの後の業務内容を報告しておいた。
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美濃の指示で準備万端で病室にやって来た男性看護師二名が手際良くエマの体を拭き、シーツの取り替えの為一旦簡易ベッドに移動させる。一人がシーツを取り替え、もう一人は美濃の助手にまわる。
「沖野くん、包帯を取り替えるわね」
はい。エマの返事を合図に彼女は素早く包帯とガーゼを取り外して患部を診る。怪我の治りは順調そうだと安堵の表情を微かに浮かべると速やかに新しいガーゼを当て、丁寧に包帯を巻いていく。
もう少し関わるべきだったかしら?
美濃はエマの執刀をして最初の二日ほどしか診察する事が出来なかった。以前から決まっていた大手術が二件立て続けに入っていたからなのだが、こうなることが予測できていればここまで他人任せにしなかったのかも、と薄い後悔が脳内を支配し始めていた。
もちろん代わりに担当した他の医師や看護師にはきちんと指示をしていたし、経過報告はカルテにも記載されていたので現状は把握していた。しかし漸く目が覚めたかと思えば、十六歳の男子高校生が五歳までの記憶しか残っていなかったと言うではないか。
「先生、シーツの張り替え終わりました」
その声とほぼ同時に最後の患部に包帯を巻き終えた美濃は、後の作業を看護師たちに任せる。エマの着替えをテキパキとこなす彼らから離れ、先程からポケットの中で震えているPHSを手に取った。
「お疲れ様です。……分かりました、すぐ行きます」
彼女はPHSを仕舞ってから着替えを終えたエマに声を掛けた。
「怪我の方は順調に治っているから、もう少ししたら抜糸しましょう。それと熱っぽい状態はもう少し続くと思うけど、病気じゃないから安心してね」
「はい、ありがとうございます」
美濃はエマの返事に微笑み返すと新たなる患者の元へ向かった。
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