第37話

教室は3階に有る。

因みに職員室は1階。

つまり目的の場所まで2階降りないといけない。

そして、重い物を担いで上がって来なければいけない。

3階まで。

うわ、相当に面倒クセッ。

怠い!

有る意味、生徒が疲労で倒れない様にエスカレーターでも設置してほしいものだ。

それかエレベーターぐらいは。

頼むよ、マジで。


「なーに呆けたツラしてんの?飯島」


「何もねーよ。山崎」


活発な水泳女子。

その為、階段のエネルギーを使う事すらお手の物。

度胸まで有るし。

全くコイツという奴は!?

俺はヒエッ!ウオッ!と言いながら。

授業に戻る為に急いで階段を山崎に引きずられながら駆け下りる。

山崎に引っ張られる形で。

引っ張らないでくれよ。

マジで勘弁して。

死ぬわコレ。

思っていると、前に居た、山崎がいきなり立ち止まった。

俺は華奢な山崎の背中に顔を打つける。


ドンッ


「うわ!?なんだ!?」


「.....あ、ごめん」


「急に立ち止まるな。何があった」


俺は説教気味で山崎を見る。

そんな山崎は何かに注目して居た。

目の前に有る、漆喰の壁に、だ。

特に何の変哲も無い、真白な壁だが。

まぁ、長年の先輩達の過ごしたりしたりしたぐらいの傷ぐらいは有るが。

しかし、何だ?


「.....突然でゴメンだけど、此処って通学の際によく通るじゃん?」


「.....それがどうした?」


「.....今だから話すけど、この場所で丁度、1年前.....君に救われたんだよ」


突如として風が。

吹いた様な気がした。

俺は山崎を見る。

山崎は恥じらっていた。

髪の毛を弄って、赤くなっている。

俺は見開いた。


「.....どういう事だ?山崎。.....その.....君を救った覚え.....無いんだけど.....この場所で眼鏡の女の子が貧血気味で居たのは覚えているけど.....」


「それはね。私なんだ。私が.....部活が文芸部で、運動嫌いで、今はコンタクトだけど、眼鏡をしていた、私」


「.....何だって?」


驚愕した。

貧血少女が山崎!?

土色の肌に、丸眼鏡。

そして、髪をお団子の様に結わえて、制服は着崩して無かった。

入学当初に見かけて、なんてか弱さそうなんだ。

って思ったけど。

次に見かけたら貧血顔だった。

俺自身が誰かを助けるという心を親父に教えてもらって居たから。

動いたんだ。

だが、それが山崎なんて。

気が付かなかった。


『大丈夫ですか?』


『はい.....大丈夫です.....』


そのまま、少女は壁に寄り掛かって倒れたんだ。

焦った俺はその子を担いで。

連れて行った。

そして任せて、そのまま去って行った。

のは覚えている。

だが、だが。

それでも。

山崎だとは思わなかった!

まさかだ。


「.....山崎.....今とはえらい違いが有るぞ.....!?」


「うん。そうだね」


山崎は一歩、二歩、歩く。

そして、丁度、1年前。

山崎が倒れ掛かった壁に山崎は手を付けた。

そして撫でる。

それから、山崎はまた驚くべき話をした。


「.....私が水泳部なのと、イメチェンしたのと、委員長になった理由は知ってる?」


「.....分からない」


山崎は。

ニッコリと可愛らしい笑みを浮かべた。

そして、かつて、倒れ掛かった壁に向かって手を付いて言う。


「それはね、君から逃げたいと思う感情と、君から逃げたく無い感情、今の君を救いたい感情。それが有ったからそれになったという事だよ。本当は部活の選択なんて意味無かったんだ。ただ.....ひたすらに強くなりたくて。強くなって君を守りたくて。そして、今のクラスメイトから無視される様な状況から君を救いたくて。でもそれで居て、イメチェンして逃げたかったから。飯島って呼んでいたのも、気づかれたく無かったから.....ごめんね。私、何言ってるかわからないや、あはは.....ごめん」


「.....!??」


「.....今だったら勇気を出せるよ。本当はもっと先で告白するつもりだったんだけど.....その、ひなた、桜ちゃんに負けたく無いから.....ね、カイくん。私ね」


後ずさりする。

あまりの衝撃に。

どうしたら良いか分からなくて。

呼び名がカイくんになった。


「.....君の事が好きなんだよ。1年前に救われた、あの時からずっとね」


山崎の言葉に。

俺の脳裏に雷が落ちる様な衝撃を受けた。

思いっきりに赤面する。

そして、思い返す。


『大丈夫。もう直ぐ保健室だから.....!』


『.....』


俺は。

握り拳を作って。

俯いた。


「.....返事はしなくて良いよ。カイくん。君の目標を応援している。だからね」


山崎は。

手を俺の頬に添えた。

何を?

と、思った次の瞬間。


チュッ


「.....!!!!?」


頬に。

キスされた。

俺はビックリしたまま、目の前の山崎を見る。

山崎はVサインをしていた。

そして、はにかむ。

赤く見えるが、決意を表している様な表情。

そして山崎は言った。


「.....負けないよ!飯島カイくん!」


と。






















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